2023.04.14

特定少年の実名等の公表に対する会長声明

  1.  2023年(令和5年)4月7日、さいたま地方検察庁は、埼玉県内で発生した特定少年による強盗致傷事件(以下「本件」という。)について、同日公判請求をすると共に、当該特定少年の実名を公表し、一部の報道機関が、実名を含む推知報道を行った。

  2.  少年法は、第1条において少年の健全育成を目的としており、改正少年法においても特定少年は、少年法の適用を受ける少年であり、少年法の健全育成の趣旨(成長発達権の保障)が妥当する。
     一度実名等が公表され、報道がなされると、インターネットの普及した現代社会においては、その情報は瞬く間に広がる。また、紙面や一時的なインターネット上での掲載であっても、記載事項をデジタル化するなどして広がることもあり、半永久的に閲覧が可能となる。衆議院及び参議院の附帯決議においても、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること」とされている。そのため、推知報道の禁止が解除されたからといって、直ちに推知事項の公表、報道をすることが容認されることにはならない。
     刑事裁判においては無罪推定の原則が適用されており、また、特定少年であっても、少年法55条の適用はあり、裁判所は事実審理の結果、少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは、決定をもって事件を家庭裁判所に移送しなければならないとされている。このことからすれば、起訴された段階で直ちに推知報道を行うことは許されないというべきである。

  3.  さいたま地方検察庁は、本件について何ら具体的理由を明示せず、「改正少年法の趣旨及び附帯決議の内容を踏まえ」てという理由で、実名公表をしているようである。
     しかしながら、少年法の趣旨及び特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないとする附帯決議の内容等を踏まえれば、実名公表は差し控えるべきであり、当会としては、さいたま地方検察庁が実名公表に踏み切ったことに強く抗議せざるをえない。

  4.  他方で、今回さいたま地方検察庁が実名公表を行ったにもかかわらず、報道機関としての主体的な判断により実名報道を行わなかった報道機関が見られたことは、事件の内容や少年法の理念等を考慮したものと思われ高く評価できる。

  5.  よって、当会としては、特定少年の健全育成及び更生の機会(成長発達権)を保障するため、検察庁に対しては、改正少年法下での実名公表を控えること、報道機関に対しては、検察庁が特定少年の実名を公表するか否かにかかわらず推知報道を控えることを、強く求める。

以上

2023(令和5)年4月13日
埼玉弁護士会 会長 尾崎 康

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