会長声明および決議書・意見書
2024.12.12
選択的夫婦別姓制度の導入を求める会長声明
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民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めて夫婦同姓を義務付けていることから、婚姻するためには、夫婦のうちどちらか一方が婚姻前の姓を変更しなければならない。
しかし、氏名は「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」(1988年2月16日最高裁判決)から、「氏名の変更を強制されない自由」もまた、人格権の重要な一内容として憲法13条によって保障される。
したがって、民法750条は、婚姻に際し姓を変更したくない人に改姓を強いて、「氏名の変更を強制されない自由」を不当に制限する規定であり、憲法13条に反する。 -
さらに、現在の夫婦同姓制度は、夫婦いずれの姓も選択し得るとされているが、現実には95%以上の夫婦が夫の姓を選択し、多くの女性が事実上改姓を強制され、姓の選択の機会を奪われている。
このように、「氏名の変更を強制されない自由」は、家父長的な家族観・婚姻観や男女の固定的な性別役割分担意識等がいまだに無言の圧力として働き、事実上妻と夫で制限を受ける程度に違いがあることから、男女間に厳然たる不平等がある。
したがって、夫婦同姓を義務付ける民法750条は、法の下の平等を定める憲法14条、婚姻における夫婦の平等を定める憲法24条1項、及び、婚姻制度は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚していなければならないことを定める同条2項に違反している。 -
国際的にも、国連女性差別撤廃委員会は、日本政府に対し、女性が婚姻前の姓を保持することを可能にする法整備を過去三度にわたり勧告してきたが、一向に選択的夫婦別姓制度の導入を進めようとしない日本政府に対し、2024年(令和6年)10月29日、実に四度目の勧告がなされた。また国際人権(自由権)規約委員会も、民法750条が実際にはしばしば女性に夫の姓を採用することを強いている、との懸念を表明している。世界各国の婚姻制度を見ても、夫婦同姓を法律で義務付けている国は、日本のほかには見当たらない。
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この点、旧姓の通称使用を認めれば選択的夫婦別姓制度を導入する必要はないとする主張がある。
しかしながら、婚姻するためには夫婦のうち一方が、人格権の一内容を構成する氏名の変更を強制されるという根本的な問題は、旧姓の通称使用では解決できない問題である。また、旧姓を通称使用しても、金融機関等との取引や海外渡航の際の本人確認、公的機関・企業とのやり取り等に困難を抱え、通称使用に伴う精神的苦痛も受けている現実があることは決して看過できない。
さらに、選択的夫婦別姓は「家族の一体感を失わせる」とする反対意見もある。
しかしながら、夫婦別姓制度を採用している諸外国において、別姓であるが故に家族の一体感が損なわれているという事実は認められず、「家族の一体感を維持するために夫婦同姓であるべき」という固定的な価値観は、夫婦の一方に対して人格権の一内容である氏名の変更を強制することを正当化する理由にはならない。 -
以上で述べたように、夫婦に同姓を強いる現行制度は、「氏名の変更を強制されない自由」や「性の本質的平等」を侵害する制度であり、国は、民法第750条を速やかに改正し、選択的夫婦別姓制度を導入すべきである。
以上
2024(令和6)年12月11日
埼玉弁護士会 会長 大塚 信雄