2024.12.17

健康保険証の発行の廃止に反対し、従来の健康保険証の発行再開・存続を求める会長声明

  1.  政府は、2024(令和6)年12月2日をもって、従来の健康保険証の新規発行をやめ、マイナンバーカード(個人番号カード)に保険証機能を持たせた「マイナ保険証」に原則一本化することとした。マイナ保険証を取得していない者全員に対して資格確認書が交付されるが、当分の間の経過措置とされる。
  2.  当会は、マイナンバー制度導入時から、制度の廃止を含めた見直しの検討を求め、各意見発出し(2013年5月23日付け会長談話、2015年5月14日付け会長声明、同年8月18日付け会長声明)、「マイナ保険証」の原則一本化に対しても市民学習会を共催するなどして反対し、その撤回を求めてきた。
     日弁連も、2023(令和5)年11月14日に「マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行保険証の発行存続を求める意見書」を発出し、各地の弁護士会・弁護士会連合会からも同趣旨の決議や会長声明が発出されている。
  3.  マイナ保険証の原則一本化は任意取得の原則に反する
     行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下「番号法」という。)は、マイナンバーカードの取得について申請主義を採用する(番号法17条1項)。その趣旨は、情報漏洩等によるプライバシー等侵害の危険性とカードの利便性とを利益衡量して、国民一人一人がマイナンバーカードの取得について選択する自由を有することにある。
     マイナ保険証の原則一本化は、「国民皆保険」制度の下、マイナンバーカードの取得を事実上強制するものであり、任意取得の原則に反するものである。
     前述のとおり、マイナンバーカードを取得していない者に対しては、資格確認書が発行されるものの(健康保険法第51条の3)、その措置は「当分の間」の「経過措置」であり(番号法等の改正法の附則第15条)、政府は、いつでも経過措置を取りやめて、資格確認書の発行を例外的な措置と位置付けることができるため、同原則に反することに変わりはない。
  4.  マイナ保険証はプライバシー保障との関係で問題がある
    1.  マイナ保険証には、健康保険証機能のみならず、保険医療機関・薬局に義務化されたオンライン資格等システムの整備に伴い、自分の診療・投薬情報、特定検診情報等との結合が当然の前提となっており、これに同意しない手続きが存在しない。
       これらの医療情報はセンシティブ情報であり、個別にこれらの情報を提供するか同意・不同意の選択ができるよう、結合自体を拒む機会を与えるのが相当である。
    2.  また、オンライン資格確認等システムでは、患者は、受診時、マイナ保険証を用いてオンライン資格確認をする際に、特定健診情報や過去の投薬情報等を医療機関に提供することの同意が求められるが、医師からその情報提供する必要性等何も説明を受けないうちに「同意」が求められ、かつ、過去3年分の全ての投薬情報について一括して「同意」が求められることとなる。
       患者の自己の医療情報にかかる「コントロール権」をないがしろにするシステムと言わざるを得ない。
    3.  国は、マイナンバーカードの多目的利用を推し進めようとしているが、マイナンバーカードに紐づけられる情報が増大し、マイナポータルで閲覧できる情報も増加すれば、マイナンバーカードとパスワードが第三者の手に渡れば、なりすましによりマイナポータルにアクセスされ、医療情報に限られない極めて広範な個人情報が不正に閲覧され、悪用される危険にさらされることとなる。
  5.  マイナ保険証の原則一本化により強いられる現場の負担
    1.  従来の健康保険証は、特段の申請行為を行わなくても、保険者から被保険者の自宅や職場に送られてきた。
       これに対し、マイナ保険証は、被保険者が顔写真を付けてマイナンバーカードの交付申請を行った上、自宅に届いた交付通知書を持参して市役所等に出向き、暗証番号の設定を行わなければ交付を受けられず、健康保険証として利用することができない。
       取得の困難性があり、特に介護施設入居者や独居の高齢者、障害者にはより顕著となる。取得後の管理に当たっても、カードとパスワードを入所施設の職員に委ねざるを得ず、入所施設等に過度の負担を強いることとなる。全国保険医団体連合会などの調査結果によれば、介護施設等から対応困難との回答が多数寄せられている。
       また、マイナ保険証として利用することになれば、これを日常的に携帯せざるを得ず、紛失や盗難の恐れが高くなる。紛失や盗難にあえば、再取得手続きが必要となり、被保険者は相当期間保険資格の証明手段を失うこととなる。
       マイナ保険証への一本化は、その取得・管理の困難性から、保険医療を受けられない被保険者を発生させ、その結果、被保険者が生命の危険に直面するおそれがある。
    2.  2023年6月の番号法等の改正法成立後も、マイナンバーと保険資格情報などの紐づけが誤っており、他人の情報が表示されたり、保険資格が表示されないため10割負担を求められた等の問題が多数発覚し、現場に混乱を招いている。
       そのようなトラブルが続いたため、政府が自治体等に総点検を指示し、健康保険組合や地方自治体などの現場に負担を押し付ける結果を招いた。
       2024年12月2日以降、健康保険証の新規発行をやめ、資格確認書が交付されるが、同様のトラブルが各地で生じ、更に現場に負担を強いる結果を招くことが予想される。
  6.  結語
     以上のことから、政府に対し、健康保険証の発行の廃止に反対し、従来の健康保険証の発行再開・存続を求める。マイナンバーカードの利活用については、カードを取得しない自由を保障するとともに、カードを取得する者に対してプライバシーを最大限保障すること、住民と直に接する自治体や保険組合、医療機関・介護施設等の現場に過度の負担をかけない形で慎重に進めるよう求める。

以上

2024(令和6)年12月11日

埼玉弁護士会
会長 大塚 信雄

戻る