2021.01.25

令和2年度司法試験合格者発表を受けての会長談話

1 本年1月20日、2020(令和2)年度司法試験合格者数が1450人であるとの発表がなされた。政府は合格者数1500人を目標に掲げているが、これを維持することができなかったものである。
当会は、昨年の合格発表直後にも抗議の意思を表明した会長談話を出し、昨年11月24日には「令和2年司法試験に関し厳正な合否判定を求める会長声明」を発出し、合格者数1500人を維持するために合格ラインが下げられることはあってはならないとの意見表明をしているところ、本年の司法試験合格者数は当会のこれまでの意見表明が反映されたものであり、その意味においては評価することができるともいえる。しかしながら、既に弁護士過剰が生じている状況下においては、たとえ昨年の合格者数1502人より52人が減少したところで抜本的な解決を期待できるものではなく、本年の合格率でみたときには、39.1%(対受験者数比。昨年は33.6%)まで高まっており、輩出される法曹の質の確保を保持できない結果を招くものであり、極めて遺憾である。

2 そもそも、司法試験の合格者数は、1990(平成2)年までは500人前後で推移していたところ、その後、漸次増加し、1997(平成9)年には746人、2001(平成13)年には990人などといった人数になった。
しかし、政府が、2002(平成14)年3月に司法制度改革推進計画を閣議決定し、司法試験合格者数の数値目標を年間3000人程度として以降、司法試験合格者数は急激に増加することとなり、2007(平成19)年に2099人となった後は2013(平成25)年まで2000人を超えていたのである。
このように司法試験合格者が急激に増やされた一方で、裁判官、検察官の採用人数がさほど増えないため、その増加人数分のほとんどが弁護士となった。これにより、弁護士の人数は、2001(平成13)年に1万8243人であったところ、本年は4万2094人(令和2年10月1日現在)と激増しているのである。
政府は、2015(平成27)年6月、司法試験合格者数の数値目標を半減させて年間1500人以上としたが、それでも弁護士急増の状況を継続することに変わりがないのであって、 弁護士過剰によって生じる諸問題を悪化させる結果となることにも何ら変わりはない。無論のこと、合格者数が1500人よりわずかに減少させたところで、状況が一変するものではない。

3 また、裁判所における新受事件数の統計や弁護士会の法律相談センターにおける相談件数の統計等からも明らかなとおり、弁護士人口が急増したにもかかわらず、弁護士に対する需要が増加する状況にはなく、むしろその需要の低下傾向すらみられている状況にある。
このため、弁護士人口の急増後、弁護士の経済的基盤の弱体化が統計上も顕著となっている。このことは、弁護士から公益活動や無償の人権擁護活動を行う余裕を奪い、さらには、弁護士間の過当競争や弁護士の活動の質の低下とも相まって、利用者である市民に損失をもたらしかねない状況ともなっている。かかる状況から、法曹を目指そうとする者の人数自体が急減してしまっている事実も看過できない。この状況を放置すれば、わが国における司法の弱体化は免れないのである。

4 さらに、法曹志願者数の推移をみると、法科大学院志願者数については、ピーク時に7万2800人(平成16年)であったところ、令和元年は9117人となっている。また、司法試験出願者数(旧司法試験の廃止後)については、ピーク時に1万1892人(平成23年)であったが、令和2年は4226人となっている。この状況からすると法曹志願者が激減しているのは明白である(なお、令和2年度法科大学院入学者数は1711人に過ぎない)。

5 当会においては、早くから上記弊害の発生を憂慮して議論を重ねてきており、 2007(平成19)年及び2009(平成21)年には、 司法試験の合格者数を年間1000人程度とすべき旨の総会決議をした。また、2015(平成27)年には、全国に先駆け、司法試験の合格者数を年間700人程度とすべき旨の総会決議をした。さらに、2017(平成29)年からは毎年、司法試験に関し厳正な合否判定を求める会長声明を発出し、合格者数1500人を維持するために合格ラインが下げられることがあってはならないとの意見表明をした。

6 しかるに、本年1月20日に発表された司法試験合格者数は、合格者数の一応の減少がみられたものの、なお弁護士急増の状況を継続させるものであり、さらに輩出される法曹の質の確保を保持できない結果を招くものであるから、強く抗議の意思を表明する。

以 上

2021(令和3)年1月25日
埼玉弁護士会 会長 野崎 正

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