2020.12.10

少年法適用年齢に関する法制審議会答申に対する会長声明

第1 意見の趣旨

法制審議会少年法・刑事法部会は、令和2年9月9日に、「とりまとめ(答申案)」を採択し、同年10月29日に、法制審議会総会は、この「とりまとめ」を「答申」として採択した。
この答申は、家庭裁判所への全件送致の枠組みを残しており、当会としてもこれを評価するものである。
しかしながら、答申において示された事項の中で、特に下記1乃至5の事項(その他の問題点についても不問に付すものではない。)について、少年法の「健全育成の理念」を後退させるものであり、少年司法の一翼を担うものとして、当会はこれらを容認することはできない。

  1. 18歳及び19歳の者が、少年法が適用される「少年」であることを明確にしていないこと
  2. いわゆる「原則逆送事件」の対象について、死刑又は無期若しくは「短期1年以上」の事件にまでその範囲を広げたこと
  3. 18歳及び19歳の者の推知報道の禁止に関し、これらの者が公判請求された場合に除外としたこと
  4. 18歳及び19歳の者を「ぐ犯」の対象としていないこと
  5. 家庭裁判所の処分は、犯罪の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないとしたこと

第2 意見の理由

1 18歳及び19歳の者に少年法が適用される「少年」であることを明確にしていないこと

答申においては、18歳及び19歳の者を少年法が適用される「少年」であると明確にせず、それらの者の位置づけ等については今後の立法プロセスにおいて検討すべきとしている。
しかしながら、18歳及び19歳の者が、未成熟であるということは経験上知り得るものであり、今般の脳科学の研究によっても明らかになっている。そうすると、18歳及び19歳の者が成長発達途上にあり、「健全育成」という少年法の理念が正に妥当する者であることは言うに及ばないはずである。
にもかかわらず、答申は、18歳及び19歳の者を「少年」と明確に位置づけていない。それは、あたかも、18歳及び19歳の者を、少年法の「少年」とすることを否定しているかのようである。このような答申の態度は、国民に対し、18歳及び19歳の者が、少年法の理念が妥当しない者という間違ったメッセージを伝えるものとなりかねない。
したがって、少年法の適用を受ける以上、18歳及び19歳の者を「少年」として明記すべきである。

2 いわゆる「原則逆送事件」の対象について、死刑又は無期若しくは「短期1年以上」の事件にまでその範囲を広げたこと

答申は、18歳及び19歳の者の原則逆送事件(少年に対し成人と同様の裁判手続を受けるようにする手続)につき、「死刑又は無期若しくは短期1年以上」の事件にまで、その範囲が拡大化することとした。
しかしながら、これを認めると、犯行態様や被害の結果などの犯情が比較的軽い事案(万引きの際に追及を逃れるために店員に軽く手をあげて負傷させてしまったような事案など)であっても逆送の対象になってしまう。その結果、これまでであれば、家庭裁判所により、少年の立ち直りのためになされていたきめ細かい調査・処分が、できないこととなってしまう。そして、18歳及び19歳の者にとって、本当は必要であった立ち直りの機会が奪われる結果となるのであり、再犯防止にとって逆効果になりかねないものであり、容認できない。

3 推知報道の禁止に関し一部適用除外とされたこと

答申によれば、18歳及び19歳の者で、公判請求された事件については、推知報道が解除されることになる。
推知報道が禁止されている趣旨は、少年の更生を図ろうとする点にある。
しかしながら、推知報道が解除された場合、18歳及び19歳の者は、公判請求されることで厳しい社会の目にさられることになる。また、インターネット上で一度取り上げられれば当該情報が半永久的に残り続けてしまう事態のあることに鑑みれば、18歳及び19歳の者の更生の大きな支障になることは明らかである。これは、18歳及び19歳の者に対し、刑罰に加えて、さらに社会的な制裁を加えようとするものであり、少年の立ち直りを阻害するものであり、少年法の健全育成の理念を大きくそこなうものであり、許されるべきではない。

4 18歳及び19歳の者を「ぐ犯」の対象としていないこと

答申は、18歳及び19歳の者を、「ぐ犯」の対象から除外した。
18歳及び19歳の者は、その未成熟さゆえに、善悪の区別が困難であったり、衝動的に行動したりする傾向が強く、犯罪そのものではなくても、将来において犯罪行為に及ぶおそれのある行動をとる少年もいる。そのような18歳及び19歳の者に対しては、現行法上「ぐ犯」として、早期に家庭裁判所が介入することで、健全育成のための方策をとることが可能となっている(少年法3条1項3号)。
18歳及び19歳の者を、「ぐ犯」の対象としないことは、将来の犯行に及ぶかもしれない者を放置することにほかならない。そのことがもたらす事態は、18歳及び19歳の者のみならず、社会にとっても、悪影響が及ぶということは言うに及ばない。
18歳及び19歳の者も引き続き「ぐ犯」の対象とすべきであり、これを否定する答申を容認することはできない。

5 家庭裁判所の処分は、犯罪の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないとしたこと

答申は、18歳及び19歳の者の家庭裁判所の処分の決定につき、犯罪の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないとした。
しかしながら、犯罪の軽重と、少年が健全に成長するために実施しなければならいこと(要保護性)とは必ずしも連動するものではない。犯情が軽い場合であっても、施設収容処分等の手厚い保護をすべき少年は多く存在するのである。
それゆえ、18歳及び19歳の者に、犯罪の軽重に重きをおいた処分によっては、十分な更生の機会が提供できるものではないことは明らかであり、実質的には、18歳及び19歳の者に少年法を適用すべきではないと言っているのと変わらないのである。
かかる答申の態度は、少年法そのものを破壊しかねないものであり、容認することができない。

第3 結論

上記してきたように、答申は、18歳及び19歳の者を明確に「少年」として位置づけていないこと、原則逆送事件の範囲を拡大したこと、推知報道禁止を一部適用除外していること、「ぐ犯」を対象としていないこと、処分の決定について、犯罪の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないとしたこと等、少年に対する健全育成の理念を大きく後退させる内容であるといわざるをえない。
そこで、当会としては、答申に対する上記の声明を発出するものである。

以上

2020(令和2)年12月10日
埼玉弁護士会会長  野崎 正

戻る