2020.06.11

定期購入契約を中心とするインターネット通信販売におけるさらなる規制を求める意見書

令和2年6月11日
埼玉弁護士会会長  野崎 正

第1 意見の趣旨

インターネット通信販売において、1回分を無料または低額のお試しと強調して商品購入の申込みをさせるが、実際にはこれに数か月にわたり商品を定期的に継続して引渡し、代金の支払い義務が発生する契約を附帯させている、いわゆる「定期購入契約」に関する被害を防止するため、特定商取引法(以下、「特商法」という。)及びその政省令等において、以下の諸規制を導入すべきである。

  1. 初回分購入の契約申込みに2回目以降も購入することが契約条件として附帯されている場合には、インターネット広告画面及び申込確認画面において、初回分購入及び2回目以降購入の契約条件全体を一体的な表示とし、購入することとなる商品の総数量、代金総額等を明確に表示することを義務付けるべきである。
    また、その義務付けにあたっては、以下の点を加えるべきである。
    1. 「2回目以降の契約条件」を「初回分の契約条件」の注意事項であるかのように分離して表示することを禁止すべきである。また、例えば「お試し●●円」など、定期購入契約であることと矛盾する、あるいは定期購入契約でないと誤認させる表示を禁止すべきである。
    2. 初回分購入の割引価額が、2回目以降の一定回数以上の購入を条件とする場合、申込確認画面における価格表示は、初回分の金額のみではなく、購入条件の回数を含めた金額を含めた総額の表示を義務付けるべきである。
    3. 初回分の購入の割引価額が、2回目以降の購入を条件とする一方で、中途で解約する場合に初回分の割引価額を適用しないときには、購入者が中途解約したとき(割引価額が適用されなくなるとき)の支払額を表示することを義務付けるべきである。
  2. いわゆるアフィリエイト広告[1]における誇大広告(特商法12条)の責任は、広告主である事業者の責任であることを法令等に明記するとともに、事業者がアフィリエイト広告を行う場合には、事業者に対し、購入者が契約の申込みをした当時の事業者のサイト広告及びアフィリエイト広告を保存し、購入者の請求に応じてその写しを開示する義務を課すべきである。
    また、アフィリエイト広告の掲出者であるアフィリエイターに関する責任についても規定を設けることを検討すべきである。加えて、広告主である事業者とアフィリエイターとの間を仲介する事業者や、アフィリエイト広告の募集を業として行う代理店に関する実態について調査し、不当な広告表示の決定に実質的に関与しているような場合は、当該不当表示に対する責任を負うものとする規制を検討すべきである。
  3. 事業者が定期購入契約について中途解約の申し出を受ける場合、事業者に対し、契約申込手続と同等の手続方法を設ける義務(例えば、インターネットWebサイトによる申込方法を設けている場合には、当該Webサイトによる解約申出方法を設ける。)を課すこと、および購入者からの解約申出に対し、適切かつ迅速に対応する体制を整備する義務を課すべきである。
  4. 適格消費者団体の差止請求(特商法第58条の19)の対象に、広告表示義務違反行為(同法第11条)及び指示対象行為(同法14条)を含めるべきである。
    また、同法58条の19は、差止請求権行使の要件として、「...誤認させるような表示をする行為を現に行い又は行うおそれがあるとき」と規定しているところ、インターネット広告のように、不当表示の削除と再表示を容易に繰り返すことができるような媒体については、「違反行為を中止しても再開するおそれがあるもの」として、同条の「おそれ」に含むことを明記すべきである。
  5. その他定期購入契約に限らず、インターネット通信販売を巡るトラブルが激増している現状に鑑み、不当な広告表示による契約について民事的救済規定を設けること、キャッシュレス決済手段の提供事業者に対する関連法制度を整備することなど、トラブル防止のための実効性ある措置を並行して検討すべきである。

第2 意見の理由

1 はじめに

近年、インターネット上の通信販売において、いわゆる定期購入契約に関する被害が急増している。
トラブルが多発している定期購入契約は、実際には、一定回数以上の商品を購入する定期購入契約であるにもかかわらず、インターネット広告画面上において、「初回●●円」、「お試し●●円」といった表示が強調され、これを見た消費者が、初回分の購入契約と2回目以降の購入契約が独立した別契約であり、初回分のみの購入契約であると誤認して定期購入契約を締結してしまうというものである。このようなケースにおいて、消費者は、2回目の商品が送付されてはじめて定期購入契約であったことに気づき、2回目以降の代金の支払いを余儀なくされるという被害や相談が多く発生している。
具体的には、以下のような契約が問題となっている。

  1. 「初回値引き価格+2回目以降期間の定めのない定期購入契約となっているが、契約の解約には決められた回数以上の購入が必要となる契約」[2]
  2. 「初回お試し価格+2回目以降決められた回数(例えば4回など)の定期購入契約」
  3. 「初回値引き価格+2回目は数カ月分をまとめて送付する契約」[3]
  4. 「初回値引き価格+2回目以降決められた回数の定期購入契約であるが、中途解約が可能となっている。ただし解約すると初回の値引きが解消される契約」

このような定期購入契約による被害に対し、平成28年から平成29年にかけて特商法及び同法施行規則が改正され、消費者庁・経済産業省より、「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをしようとする行為』に係るガイドライン」(以下、「ガイドライン」という。)が規定された。

2 さらなる法規制の必要性

(1)広告画面及び申込確認画面に係る法規制の必要性

  • 上記改正では、インターネット通信販売における広告において、「商品の売買契約を二回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び金額、契約期間その他の販売条件」を表示することとされたが(特商法施行規則8条7号)、これ以上のことは規定されていない。
    また、同施行規則16条1項に関する上記ガイドラインでは、申込確認画面において、初回値引き価格だけをまず表示し、2回目以降の単価・回数・総額・支払時期等の内容を注意書きの形で表示することも許容するかのような記述がされている[4]。
    そのため、インターネット広告画面上では、2回目以降の契約条件を初回分購入の支払金額と一体的に表示せず、「お試し●●円」という表現や「初回●●円」という強調表示を、大きなフォントや目立つ色や動く文字によって多用してあたかも低額な金額で契約できるかのように表示し、かつ、2回目以降の購入条件の注意書き表示をこれらの強調表示と異なる場所にまたは小さな活字で記載するなどして、あたかも1回のみの購入であるかのように表示し、消費者に定期購入契約であることを気付かせずに申込みをさせる手口が存在する。
  • その結果、後に定期購入契約であると気づいた消費者が、事業者に対し、苦情を申し出て解約を希望しても、事業者は、上記ガイドラインを逆手に取り、広告画面や申込確認画面のどこかに2回目以降の契約が附帯している旨の記載があると主張して、解約申出を受け入れようとしない。
    消費生活センターが事業者とあっせん交渉を行っても、事業者は、広告画面や申込確認画面に定期購入であることに関する何らかの注意表示が掲載されており、消費者が定期購入契約であることを見落としたにすぎない、などと主張して、解決困難な状態が続いている[5]。
    このように、現行の法令規定は、広告画面や申込確認画面の表示が法令違反であるか否か評価が分かれるような規定となっているため、結局主張の対立によって適正な解決が困難となり、多くの消費者はあきらめるほかない状態となっている。
  • ところで、消費者庁は、特商法に違反する誇大表示や不適切な申込確認画面表示を行っている事業者に対して、行政処分を行い(令和元年12月26日付行政処分(2件)、令和2年1月21日付行政処分)、埼玉県も、事業者が自社サイトやアフィリエイト広告に誇大表示や不適切な広告画面表示を行っている事業者に行政処分を行っている(令和2年4月1日付行政処分)。
    このことからも、不適切な表示や誇大な表示に対する明確な規制を設け、被害の救済及び相談処理に一定の指針を与える必要性がある。

(2)アフィリエイト広告に関する法規制の必要性

  • SNSの利用者増加によって、アフィリエイト広告のリンクから販売サイトへアクセスして注文をするケースが増えている。ところが、アフィリエイターが運営しているアフィリエイト広告は、通信販売業者としての規制を受けないことから、「初回」、「お試し」といった低額さばかりを強調するような誇大な広告表示しているケースが多く、消費者が定期購入契約であることを認識できないまま、初回分のみの契約であると誤認してクリックし、リンク先の事業者サイトの申込画面で申込みをするケースが増えている。
  • また、不当なアフィリエイト広告によって消費者が定期購入契約であることを認識せずに契約をしてしまった場合であっても、アフィリエイトサイトはアフィリエイターが運営するものであるため、事業者は、アフィリエイターに責任があるなどと主張し、自身の責任を免れようとすることがある。
  • 加えて、事業者が自らのウェブサイトを変更することやアフィリエイトサイトのリンクやバナー等から移動するウェブサイトを変更すること、アフィリエイト広告を削除することが容易であるため、消費者が定期購入契約であったことを誤認したとしてその旨主張しようとしても、すでに上記のような変更等をされてしまうと契約過程にいたる状況を再現できず、消費者がその被害を訴えることができないなどの状況も見られる。
    したがって、アフィリエイト広告による被害をなくすために、これに対する法規制を及ぼす必要性がある。

(3)中途解約申出方法に関する法規制の必要性

定期購入契約には、中途解約を認めているものが存在するところ、契約の申込みに関しては、24時間いつでもインターネット上で申込みできるものが多く存在する一方で、消費者からの解約申出については、受付時間を設けたり、その手段を電話に限定しているケースが多く存在する。さらに、事業者において解約申出に対応する人的体制が十分に整備されていないことなどから、消費者が、自らのタイミングで解約ができない、解約申し出をしようと電話をかけてもなかなかつながらないなどして事実上解約ができず、被害が拡大するケースが多く存在する。中には、広告画面上は「いつでも中途解約できます」などと安心感を与える表示を強調しておきながら、実際には、「解約申出は電話に限る(午前9時~午後5時)」などとしている悪質なケースも存在する。
現に、インターネット通信販売業者が、「いつでも好きな時に1ステップで解約できます」などと表示していながら、実際には電話での申出に限られており、受付時間も平日昼間の時間帯に限定され、その電話がつながりにくいという事案について、景品表示法5条2号の有利誤認表示に当たるとして措置命令を行った事例が存在する(令和元年8月20日付け埼玉県による措置命令)。
このように、消費者からの中途解約が事実上制限されていることによる被害をなくすために、事業者に対し、契約申込みの方法と同様に、消費者からの中途解約を容易にする方法を義務付ける必要性がある。

(4)適格消費者団体に関する法規制の必要性

  • 特商法では、通信販売事業者に対し、広告表示義務(同法11条)、誇大広告の禁止(同法12条)、主務大臣による指示対象行為(同法14条)を規定しているが、適格消費者団体による差止請求の対象となっているのは、誇大広告である。
    ところで、前記(1)アでも述べたように、定期購入契約に関する被害には、事業者が、特商法11条5号、同法施行規則8条7号で規定されている、「商品の売買契約を二回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び販売条件」の表示義務を尽くしていなかったり(尽くしたと評価できない場合も含む)や、同法14条1項2号、同法施行規則16条1項で規定されている「顧客の意に反して契約の申込をさせようとする行為」を行っているために、消費者が、定期購入契約であることを認識できずに契約に至る場合もある。
    しかしながら、適格消費者団体の差止請求の対象は、誇大広告のみとされていることから、上記違反行為によって消費者に被害が生じるおそれがあっても、適格消費者団体が差止請求できないという状況が起きている。
    そこで、広告表示義務違反行為や指示対象行為も適格消費者団体による差止請求の対象とする必要がある。
  • また、各地の適格消費者団体は、定期購入契約に関する被害に対し差止請求の取組を行っているが、事業者が短期間のうちにインターネット広告を変更したり、アフィリエイト広告を削除してしまうため、訴訟提起まで至らないで終了してしまうケースが多い反面、同一業者又は別業者が次々と広告画面を変えて同様の定期購入契約トラブルを繰り返している。
    さらに、定期購入契約に限らず、事業者が消費者を誤認させる不当な表示をしていることについて、行政庁や適格消費者団体等が法令違反を指摘して是正を求めても、短期間のうちに容易にインターネット広告画面を変更することができることを悪用し、頻繁に画面表示を変更して誤認を招く不当な表示を繰り返しているケースが横行している。
    そこで、上記のような事業者に対する適格消費者団体による差止請求を実効的にする必要性がある。

(5)その他、定期購入契約事案に限らずインターネット通信販売について特商法の規定を検討すべき必要性

定期購入契約事案に限らず、インターネット通信販売に関しては以下のような問題があることから、特商法を含めた関連諸規定の改正を検討すべきである。

  • インターネット通信販売ではインターネット上に掲載された事業者の広告画面や申込確認画面が契約締結の意思形成に重大な役割を担っているにもかかわらず、事業者が広告表示義務(特商法11条)、誇大広告の禁止(同法12条)、指示対象行為(同法14条)に違反していたとしても取消権が存在しない。
  • 特定の顧客層を選別して閲覧させるターゲティング広告やポップアップ広告 を掲出するなど、事業者が積極的に消費者に送付するインターネット広告による通信販売や、SNSの一般的口コミサイトや商品販売との関係を明示していないブログ等を利用して、販売目的を明示しないでSNSやブログ等でやりとりをした上で契約をさせるなどの不意打ち性、攻撃性のあるインターネット通信販売が存在している。
  • 加盟店管理責任を負わない後払い決済会社(収納代行業者)が介在するケースが増え、加盟店に対するコントロールが及ばず、被害拡大の一要因となっている。

3 新たな規制方法

そこで、意見の趣旨記載のとおり実効性ある規制を講ずべきである。

(1)意見の趣旨1について

  • 前記2(1)で述べたように、現行法令による規制だけでは、定期購入契約が条件であることを消費者が容易に認識することができない。
    そこで、初回分購入の契約申込みに2回目以降購入申込の契約条件が附帯している場合[6]には、インターネット広告画面及び申込確認画面において、初回分購入及び2回目以降購入の契約条件全体を一体的な表示とし、購入することとなる商品の総数量、代金総額等を明確に表示することを義務付けるべきである。
    なお、広告表示義務(特商法11条)に具体的規定を追加するか、誇大広告  の禁止(同法12条)に不当表示の解釈規定を設けるか、指示対象行為(同法14条)に誤認を招く広告表示を追加するか、項目に応じて実効性ある規定を検討する必要がある。
  • そして、義務付けにあたっては、以下の3点を加えるべきである。
    1. まず、インターネット広告表示及び申込画面において「2回目以降の契約条件」を「初回分の契約条件」の注意事項であるかのように、分離して表示することを禁止すべきである。
      なぜなら、初回分の契約条件の表示と2回目以降の契約条件を分離して記載する表示方法は、初回分の購入契約が存在するほかに、独立して2回目以降の購入契約が存在するように読むことができ、消費者に対して、初回分の契約が個別の契約であるとの誤認を生じさせるからである。そのため、「初回分契約+2回目以降契約」のような表示自体、定期購入であることを秘して誤認を狙う記載であるといえるため、禁止すべきである。
      また、広告表示や申込確認画面において「お試し」との表示をしたものが見受けられるが、定期購入契約の場合、初回分の購入を「お試し」と表示すること自体が矛盾する表示であるから、このような定期購入契約でないと誤認させる表示も禁止すべきである。
    2. 初回分購入の割引価額が、2回目以降の一定回数以上の購入を条件とする場合、申込確認画面における価格表示は、初回分の金額のみではなく、購入条件の回数を含めた金額を含めた総額の表示を義務付けるべきである。
      2回目以降の一定回数以上の購入を条件として初回分の購入の割引価額が適用される場合、その契約の実際の代金は、初回の割引価額に2回目以降の一定回数の支払代金を加えた総額であり、定期的な代金の支払いと定期的な商品の引渡しは、代金支払時期と商品引渡時期を定めたものにすぎない(2回目に数カ月分を一度に送付する場合は明らかである)。契約金額の総額が申込確認画面で表示されれば、消費者は当該契約が初回分のみの契約でなく、2回目以降の購入も条件となっていることや支払うべき総額を認識することができるのであるから、契約の実態に即した表示になり、被害の未然防止にも資する。
    3. 初回分の購入の割引価額が、2回目以降の購入を条件とする一方で、中途で解約する場合に初回分の割引価額を適用しないときには、購入者が中途解約したとき(割引価額が適用されなくなるとき)の支払額を表示することを義務付けるべきである。
      中途解約をした場合に初回分の金額が割引されない場合、消費者が契約時に認識した初回分金額とは異なる金額となる。そのため、中途解約した場合に支払わなければならない初回分の金額を広告画面及び申込画面において明確に表示するべきである。このような表示がされていれば、中途解約の際の支払額が明確となり、消費者は、継続的な購入が初回分の価格割引の条件であるということを理解できるとともに定期購入契約であることを認識することができる。
      なお、初回分のみ割引が適用されるが、解約または更新拒絶の申し入れがない限り、自動的に継続的な購入となる場合にも、初回分の金額のみを申込確認画面の代金額に記載することは許さず、申込確認画面上に2回目以降の金額も(注文されているものとして)記載することを義務付けることも検討すべきである。
      なぜなら、解約または更新拒絶の申し入れがない限り継続的な購入になる場合には、2回目以降の金額を確認画面で記載しなければ、継続的な購入であることを予測できず初回分の契約のみの申込であると誤認するおそれがあるからである。解約または更新拒絶の申入れがない限り契約が継続される契約の場合の総額について、消費者庁の通信販売広告Q&AのQ21、通信販売(いわゆる定期購入契約Q&A)では、例えば半年分や1年分などまとまった単位での購入価格を目安として表示するなどして、1回限りではないことを消費者が容易に認識できるようにすることが望ましいとしている。

(2)意見の趣旨2について

  • アフィリエイト広告における誇大広告(特商法12条)の責任は、広告主である事業者の責任であることを法令等に明記するとともに、事業者がアフィリエイト広告を行う場合には、購入者が契約の申込みをした当時の事業者のサイト広告及びアフィリエイト広告を保存し、購入者の請求に応じてその写しを開示する義務を課すべきである。
    1. このようにすることで、広告主からアフィリエイターに対し、自社の商品の広告を委託するに際しまたは売り上げに応じた成功報酬を支払うに際し、適正な広告をするようコントロールが働くとともに、消費者が定期購入契約であることを認識できたかどうかを検証でき、不当なアフィリエイト広告を排除できるからである。
      また、アフィリエイト広告の誇大広告について広告主である事業者の責任であることを省令等に明示することは、現行法の解釈運用を確認する意味があり、かつ責任の所在が明示されることによって、被害事案の相談処理の指針ともなり、事業者の違反行為を抑制する効果を生むことが期待できる。
    2. また、事業者のサイト広告であれアフィリエイト広告であれ、インターネット広告は短期間のうちに簡単に変更することができ、特にアフィリエイト広告はそのサイトを簡単に削除することが多いため、消費者がどの広告からアクセスしたかを再現することが困難であることが多い。他方、事業者は、成功報酬の支払いをするため、契約者がどのアフィリエイト広告からいつアクセスしたか確認でき、また事業者のサイト広告についてはいつでも確認できる。
      そこで、広告主である事業者の責任内容として、購入者がアクセスした当時の自社サイトの広告とともにアフィリエイト広告を一定期間保存することを義務付け、消費者から請求があった時はその写しの開示義務を、苦情の適切処理義務の一環として課すべきである。 
    3. なお、消費者庁は、「近年、インターネットを用いた広告手法の一つであるアフィリイトプログラムを用いて、アフィリエイターが、アフィリエイトサイトにおいて、広告主の販売する健康食品について虚偽誇大表示等に当たる内容を掲載することがある。このようなアフィリエイトサイト上の表示についても、広告主がその表示内容の決定に関与している場合(アフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合を含む。)には、広告主は景品表示法及び健康増進法上の措置を受けるべき事業者に当たる。」との解釈を示している(消費者庁2016年6月30日付け「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」)。したがって、広告主はアフィリエイト広告の依頼主として、積極的に記載内容を指示した場合であれ一任した場合であれ、広告の成果(売上)を享受するとともに、誇大な表示によって生じた不利益の責任を負うべき立場にある。
      こうした解釈を前提に、埼玉県は、令和2年4月1日、アフィリエイトサイトにおける誇大広告を特商法違反であるとして行政処分を科している。
      このように、アフィリエイト広告の誇大広告についても、広告主たる事業者の不当表示ないし誇大広告であるという行政解釈が定着している。
  • また、アフィリエイト広告における不当表示の掲出者であるアフィリエイターに関する責任についても規定を設けることを検討すべきである。
    加えて、広告主である事業者とアフィリエイターとの間を仲介する事業者や、アフィリエイト広告の募集を業として行う代理店に関する実態について調査し、不当な広告表示の決定に実質的に関与しているような場合は、当該不当表示に対する責任を負うものとする規制を検討すべきである。
    1. なぜなら、アフィリエイターは、広告主である事業者が決定した広告を掲出することを承認し、自己のウェブサイトに表示することを決定しており、アフィリエイト広告の表示内容に関与している。それにもかかわらず、アフィリエイターについては通信販売業者でないことを理由に何らの責任も負わせないとすると、契約の締結やクリック数等に応じて報酬をもらうアフィリエイターによる「初回●●円」、「お試し●●円」といった低額さばかりを強調するような誇大な広告を抑制することはできず、消費者が定期購入契約であることを認識できないまま申し込みをしてしまう被害は減らない。それゆえ、アフィリエイターに関する責任についても規定を設けるべきである[7]。
    2. また、近年のアフィリエイト広告は、広告主から委託を受けてアフィリエイト広告を展開する代理店(アフィリエイトサービスプロバイダー:ASP)が、アフィリエイターの募集からアフィリエイト広告の内容決定、成約件数及び成功報酬額の管理まで包括的に運営しているケースが少なくない。このように広告代理店が不当表示の決定及び掲出に実質的に関与しているような場合は、通信販売業者と共同して不当表示の作出を行う者として責任を負うべき対象となりうると考えられる。いずれにしてもアフィリエイト広告の手法には様々な手法があり広告表示に関与している者が事業者やアフィリエイターの他にもいるため、被害者の救済のためには、アフィリエイト広告の実態を調査し、規制のあり方を検討すべきである。

(3)意見の趣旨3について

  • 事業者が定期購入契約について中途解約の申し出を受ける場合、事業者に対し、契約申込手続と同等の手続方法を設ける義務(例えば、インターネットWebサイトによる申込方法を設けている場合には、当該Webサイトによる解約申出方法を設ける。)を課すこと、および購入者からの解約申出に対し、適切かつ迅速に対応する体制を整備する義務を課すべきである。
  • 定期購入契約においては、中途解約ができるという表示を信頼して申込みをするケースも少なくないため、解約の機会が十分に確保されていないことによる消費者の不利益は大きい。他方、事業者にとって、24時間インターネット上で申込み受付を行っているにも関わらず、消費者からの解約の手段を電話のみとしたり、受付時間に制限を設ける合理的理由はなく、申込みと同等の方法で解約の申出を受けることは容易であるし正確であると考えられる。また、解約手段を電話のみとした場合、電話の受付体制が整っていないなどの事情から、電話がつながらず、解約ができないということが生じている。そのため、解約の申出を受け付ける場合には複数の手段を用意する、あるいは適切に対応すべき体制を整えることを義務づけるべきである。このことは、苦情受け付けについても同様の理由が当てはまる。  
    また、解約の申し出をしたにも関わらず、迅速な手続きが行われず、引続き定期購入契約による商品を送付されてしまうと、消費者にとってはその返還をしなければならず、また受け取ったことにより契約の継続がされているものと誤信しかねない。それゆえ、解約の申出があった場合には適切かつ迅速に対応する体制を整備する義務も設けるべきである。

意見の趣旨4について

  • 適格消費者団体の差止請求(特商法第58条の19)の対象に、広告表示義務違反行為(同法第11条)及び指示対象行為(同法14条)を含めるべきである。
    これらを適格消費者団体による差止請求の対象とすることにより、消費者が定期購入契約であることを誤認して契約の申し込みをするという被害を防止することができ、かつ、事業者が広告表示義務や指示対象行為を遵守し、適正な表示をすることが期待できる。
    適格消費者団体は、内閣総理大臣から認定を受け、差止請求権行使につき報告義務等を負っている公的性格を有する団体であるから、差止請求の対象範囲を広げることで、幅広く消費者被害をなくすことができる。
  • また、同法58条の19は、差止請求権行使の要件として、「...誤認させるような表示をする行為を現に行い又は行うおそれがあるとき」と規定しているところ、インターネット広告のように、不当表示の削除と再表示を容易に繰り返すことができるような媒体については、「違反行為を中止しても再開するおそれがあるもの」として、同条の「おそれ」に含むことを明記すべきである。
    インターネット広告では広告の削除や改変が容易であるため、広告表示義務違反行為や誇大広告、指示対象行為を行っている事業者であっても、一時、不当表示を削除したり、適切な表示に修正するものの、時間を置いて、再び上記行為を行う場合や、事業を閉鎖した上で、新たに別の商号で同様の行為を行うという場合が存在する。
    現行法上も、再度違反行為を行う「おそれ」がある場合には差止請求を行うことは可能であると考えられるが、どの程度のおそれが必要であるかは明らかとなっていない。そこで、上記のような悪質な事業者による不当表示をなくすため、インターネット広告のように、不当表示の削除と再表示を容易に繰り返すことができるような媒体については、「違反行為を中止しても再開するおそれがあるもの」として、同条の「おそれ」に含むという解釈規定を設けるべきである。
  • なお、クロレラチラシ配布差止等請求事件の最高裁判決(平成29年1月24日)は、消費者契約法に基づく差止請求において、消費者契約法12条1項及び2項の「現に行い又は行うおそれがあるとき」の解釈につき、事業者が、折り込み広告における不実告知の表示を中止していることから、当該要件に該当せず、差止請求は認められないとした。この判断自体については、批判のあるところである。
    しかし、仮に上記最高裁判決の判断を前提とするとしても、折込み広告は、その製作コストがかかるうえ、紙媒体という形として残るものであるから、事業者にとっては折り込み広告での不当表示を繰り返しにくいといえるが、インターネット広告は、改変が容易であり、そのコストもかからず、また、画面をスクリーンショット等しなければ形に残らないという特性がある。事業者がインターネットにて誇大広告を行っている場合に、単に誇大広告を削除したことをもって、差止請求ができないということになれば、差止請求権そのものが実効性を欠く手段となってしまう。
    よって、前記イのような措置を講ずべきである。

(5)意見の趣旨5について

  • 事業者が広告表示義務(特商法11条)や誇大広告の禁止(同法12条)、指示対象行為(同法14条)に違反した場合に、取消権の付与や立証責任を事業者に負担させるなどの規定を検討すべきである。
    現行法上、通信販売においては、購入者に取消権が付与されていない。
    しかし、インターネット通信販売では、広告が意思表示の形成過程に重要な役割をもつ。そのため、事業者の広告が、広告表示義務や誇大広告の禁止義務、指示対象行為に違反している場合には、消費者の意思決定に影響を与えているといえ、とりわけ、定期購入契約でいえば、「初回●●円」、「お試し●●円」などの表示や、定期購入契約であることを小さく表示することなどから、定期購入契約であることを認識せずに契約を締結してしまうケースが多い。
    消費者契約法の平成28年改正において、広告の不当表示に関し明文の規定を置くことは見送られた。しかし、特に、インターネット広告は消費者の意思形成に極めて重要な影響をもたらすものであり、かつ、インターネット広告では、広告に張り付けられたリンクやバナーから容易に申込画面等に移動することができ、クリックボタンにより直ちに契約の申込みに至ってしまう。このようなインターネット通信販売の性質からすれば、前記特商法11条、12条及び14条に定められた義務違反が存在する場合には、契約の取消しを可能とする[8]、あるいは、誇大広告より消費者が初回のみの契約であると誤認したときは、申込確認画面において、そのような誤認が解消されたかどうかの立証責任を事業者に負わせるなどの規定を検討すべきである。
  • 特定の顧客層を選別して閲覧させるターゲティング広告やポップアップ広告を掲出するなど、事業者が積極的に消費者に送付または閲覧させるインターネット広告による通信販売や、SNSの一般的口コミサイトや商品販売との関係を明示していないブログ等を利用して、販売目的を明示しないインターネット広告に起因する通信販売の契約について、クーリング・オフ規定を設けることを検討すべきである。
    一般的な通信販売においては、消費者が自らインターネット販売サイトを  検索して商品を購入したり、他の事業者のインターネット販売サイトにて、同様の商品内容や価格等を比較検討しながら、商品を購入することが想定されている。
    しかしながら、インターネット広告の中には、事業者が積極的かつ一方的に消 費者に広告を送付または閲覧させるケースや、販売目的を明示しないでSNSのやり取り等に誘い込むケースなど、不意打ち性や攻撃性が認められる販売方法に当たるものがある。
    このようなターゲティング広告やSNSによる広告などにおいては、消費者が その不意打ち性や攻撃性から、不本意に契約をさせられることも多いため、このような広告により契約に至った場合には、クーリング・オフ制度などを導入し、消費者の保護を図るべきである。
  • インターネット通信販売における悪質業者の代金回収についてキャッシュレス決済手段を提供している収納代行業者、立替払い型後払い決済業者等の実態を把握したうえで法的整理を行い、割賦販売法および資金決済法により決済業者に対し加盟店管理責任を定めるなどの横断的な法制度の整備を検討すべきである。
    インターネット通信販売による被害拡大の一因として各種キャッシュレス決済手段を提供する収納代行業者や立替払い型後払い業者等の存在がある[9]。通信販売業者は、これらの決済業者より販売代金を確実に取得し、決済業者は消費者に対して後払いとして代金の支払いを請求する。通信販売業者の違法行為によって消費者が契約をさせられ、消費者が代金の支払いを拒絶したいと考えても、決済業者は消費者の主張を聞くことなく、支払い通知等の送付を繰り返す方法をとり、支払い拒絶が続くと他の取引で当該決済機能を消費者が利用できなくなる不利益が生じる。
    債権譲渡構成をとっているケースの場合は、本来は錯誤による取消や消費者契約法の不実の告知、重要事実の不告知などの取消の抗弁は接続できる(改正民法468条1項)と考えられるが、決済業者は事実上第三者として請求を続けることでトラブルとなっている。収納代行業者については資金決済法による規制が何も課されていないため、収納代行業者と称して実態が不明朗な決済手段を提供している例もある。立替払い型の後払い決済は、個別信用購入あっせんの仕組みであるが、翌月一括払いは割賦販売法の適用対象とされていない。プリペイド決済や資金移動業を取り次ぐ決済代行業者も、現行法上は具体的な規制がない。
    そこで、これらのキャッシュレス決済手段提供業者について横断的な法制度を整備し、加盟店が特商法や景品表示法を遵守しているかどうかについて加盟店調査措置義務を負わせることで、通信販売業者の取引適正化を図ることが必要である。
    したがって、急速に広まるキャッシュレス決済業者と通信販売業者、消費者との法律関係を整理し、消費者被害を発生させないようすき間のない横断的な法制度を早急に検討すべきである。

以 上


[1] アフィリエイト広告とは、広告主である事業者または広告代理店から依頼を受けたアフィリエイターが、広告主が供給する商品・役務の紹介記事をブログやSNSに掲載し、そのサイトを見た消費者がリンク先の広告主の自社サイトで商品・役務を購入した場合には、広告主からアフィリエイターに対し成功報酬が支払われる仕組みである(単にアフィリエイトと呼ばれることもある)。この仕組みにおいて、広告される商品・役務を供給する事業者を「広告主」といい、広告を掲載するウェブサイトを「アフィリエイトサイト」、アフィリエイトサイトを運営する者を「アフィリエイター」という。
[2] 契約の解除ができるが、一定回数の購入が契約解除の条件となっているため、実質的に一定回数の購入が決められた契約といえる。
[3] 初回は無料であるが、2回目以降は数カ月分の契約となっており、数カ月分を一度に送付されるものなど。
[4] ガイドライン「画面例8・9・10」参照。
[5] 国民生活センターの令和元年12月19日の報告によると、平成30年は23,002件の相談であったところ、令和元年(11月30日まで)の相談件数はすでに29,177件に上り、前年同時期に対し230%になっているとされている。
[6] 複数回の履行にわたる1個の契約もしくは期間の定めのない1個の契約で中途解約申出が可能と定める方法と、更新拒絶がないことをもって契約が自動更新されると定める方法とが想定できるが、いずれの場合も当初の申込みにより2回目以降の拘束力が附帯することを一体的に表示することが必要である点で変わらない。
[7] 景品表示法では、「事業者」について、問題となる「表示の内容の決定に関与した事業者」であると解されているところ、「表示の内容の決定に関与した事業者」とは、「自ら若しくは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した事業者」のみならず,「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」...も含まれるものと解するのが相当であるとし、「他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた事業者」とは,他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承し、その表示を自己の表示とすることを了承した事業者をいうと解されている。
[8] 虚偽誇大広告(特商法12条)は不実告知に該当しうるものであり、広告表示義務違反(同法11条)は不利益事実の不告知に該当しうるものであり、意に反する申込の禁止違反(同法14条)は錯誤取消しに該当しうるものである(電子消費者契約法3条)。
[9] 国民生活センター令和2年1月23日「特別調査・消費者トラブルからみる立替払い型の後払い決済サービスをめぐる課題」参照。

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