2020.01.08

死刑執行に抗議する会長声明

  1. 2019年12月26日、森まさこ法務大臣の命令により、死刑確定者1名に対する刑の執行がなされた。
    死刑は、国家が人命を奪い、これにより人が享有するすべての権利・自由を剥奪する刑罰である。それ故に、死刑は究極の人権侵害制度であるといわざるをえない。しかも、誤判や冤罪の危険が常につきまとう現在の刑事司法制度の下では、死刑は取り返しのつかない結果を招来するものであり、このことは、死刑確定後の再審により無罪が確定した過去4件の事件(免田、財田川、松山、島田事件)からも明らかである。
    このように、死刑が究極の人権侵害を内包する刑罰である以上、基本的人権の尊重という憲法の最高価値を実現する観点からは、死刑制度の廃止を志向すべきであり、そのために全社会的な議論を尽くすことが求められる。
  2. 世界各国の状況をみると、2018年12月末現在、すべての犯罪に対して死刑を廃止した国は106か国、通常犯罪のみに死刑を廃止した国は8か国、事実上死刑を廃止した国は28か国であった。死刑制度を残し、実際に死刑を執行している国は世界的にも少数といえる。
    日本政府は、これまで国連の自由権規約委員会(1993年、1998年、2008年、2014年)、拷問禁止委員会(2007年、2013年)及び人権理事会(2008年、2012年)から、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるとする勧告を受けてきた。さらに、2018年7月になされた各死刑執行に対しては、駐日欧州連合(EU)代表部、EU加盟国の駐日大使、アイスランド、ノルウェー、スイスの駐日大使が共同声明を出し、日本政府に対し、死刑を廃止することを視野に入れた死刑の執行停止の導入を呼びかけた。
  3. このような状況下においてなされた今回の死刑執行は、世界的な潮流に逆行し、国際機関からの度重なる勧告等を軽視するものといわざるをえず、人命を軽視する日本政府の姿勢を端的に示すものである。
    さらに、日本政府は、死刑に関する情報を十分に公開せず、全社会的議論の土壌すら与えようともしない。このような日本政府の態度は、基本的人権の尊重という憲法の最高価値を蔑ろにするだけでなく、国際協調主義の精神・趣旨(憲法98条2項)に悖るものであり、厳しく批判されなければならない。
  4. 当会は、2018年7月、同年12月、2019年8月の死刑執行後、重ねて日本政府に対して、究極の人権侵害制度である死刑の廃止に向けた全社会的議論を主導すること、その間においてはすべての死刑執行を停止することを強く求めてきた。当会に限らず各地の弁護士会からも抗議の意見が出される中で行われた死刑執行に対し、改めて強く抗議する。
  5. 以上から、当会は、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、改めて日本政府に対し、死刑廃止の実現に向けた全社会的議論を行うこと、及び、これが尽くされるまでの間、全ての死刑執行を停止することを強く求める。

2020年1月8日
埼玉弁護士会会長  吉澤 俊一

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