2017.07.12

銀行等による過剰貸付の禁止を求める意見書

2017(平成29)年7月12日
埼玉弁護士会会長  山下 茂

第1 意見の趣旨

  1. 国は,貸金業法13条の2等の規定を改正する等により,貸金業者が自ら貸付けを行う場合のほか,銀行,信用金庫,信用組合等(以下「銀行等」という。)の行う貸付けに保証を付す場合についても,借入残高が年収の3分の1を超えないように総量規制の対象とすべきである。
  2. 銀行等は,少なくとも消費者金融会社による保証を付した消費者向け貸付けを行う際には,上記貸金業法13条の2の規定の趣旨を踏まえて,原則として,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを行わないなど,銀行等による貸付けが消費者にとって過剰な貸付けとならないように,消費者の実態を踏まえた適切な審査態勢を構築すべきである。
  3. 金融庁は,銀行等が消費者金融会社による保証を付した消費者向け貸付けを行う事例について調査するとともに,改正貸金業法の趣旨を踏まえて,原則として,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを銀行等が行わないようにするよう,指針等に明記すべきである。

第2 意見の理由

  1. 総量規制の導入による成果
    「多重債務者」の増加が深刻な社会問題となったことから,平成18年12月に貸金業法等の改正が行われ,出資法の上限金利を引き下げるとともに,貸し過ぎ・借り過ぎ防止のために,個人の借入残高が年収の3分の1を超える場合に,貸金業者に対して,原則として新規の貸付けを禁止するいわゆる「総量規制」が導入された。
    この総量規制の導入もあって,5社以上から無担保無保証借入の残高がある者の数が約171万人(平成19年3月末)から約12万人(平成28年3月末),自然人自己破産の新受件数は16万5932件(平成18年)から6万3844件(平成27年)へと,大幅に減少した。
    また,多重債務が原因とみられる自殺者数も1973人(平成19年)から667人(平成27年)へと大幅に減少し,多重債務対策は自殺対策としても機能している。
  2. 銀行等による貸付けの増加と貸金業法の趣旨に反する実態
    ところで,近時,貸金業法が適用されず,総量規制の対象外とされている銀行等による消費者向け貸付けが急激に増加している。
    国内銀行の消費者向け貸出しにおいて,住宅資金貸付以外の「その他のローン」のうち,「カードローン等」の残高は,3兆4367億円(平成24年12月)から5兆4377万円(平成28年12月)へと4年間で約1.58倍に急増している。
    これに伴い,大手消費者金融会社においては,貸付残高に比較して,保証業残高が顕著に増加している。例えば,アコム株式会社では平成28年3月期の無担保貸付残高が約7582億円であるのに対して保証事業残高は約8857億円であり,SMBCコンシューマー・ファイナンス株式会社では同期の無担保貸付残高が約7288億円であるのに対して保証事業残高は約1兆798億円であり,いずれにおいても無担保貸付残高よりも,保証事業残高の方が多くなっている。
    これらは,銀行等による消費者向け貸付けについて,消費者金融会社が機関保証をしていることに起因している。
    現に,銀行等による消費者向けの貸付けについては,例えば「当行指定の保証会社を受けられる方」を条件としますとか,「銀行指定の保証会社である株式会社○○の審査があります」というように,保証会社として消費者金融が機関保証をし,かつ消費者金融の審査を受けることを前提とする広告が多くの銀行のホームページにおいて見られるところである。
    しかも,銀行の消費者向け貸付けについては,最近でこそ「銀行のカードローンは総量規制の対象外です」のように,明確に総量規制の対象外と謳うホームページは見られなくなったものの,現在においても「年収確認資料不要」「収入証明不要のスピードローン」「主婦(夫),アルバイト,契約社員の方もお申し込みOK」などのように,銀行等のローンにおいては,年収の3分の1を超える貸付が可能であることを前提としたような表示が多く見られる。
    このように,銀行等による消費者向け貸付けについては,消費者金融の保証を条件に消費者金融による審査を前提とする態勢を取っていながら,収入の3分の1を超える貸付けを行っており,貸金業法の総量規制の趣旨を没却しかねない現象が生じている。すわなち,実際に審査を担当する消費者金融によって信用情報等を踏まえて与信をするにあたって,消費者金融が自ら貸す場合には消費者の借入残高が収入の3分の1を超える場合となり貸付を行うことができないのに,銀行等が貸主であることによって借入残高が3分の1を超えても貸付ができるとして審査をし,自ら機関保証をしているのである。
    実際に弁護士が日常的に取り扱う債務整理事件においても,当初債権者は銀行等であるが,受任通知到達後に機関保証をしていた消費者金融会社が求償権を取得する事例が散見される。そして,そのような事例の中には,債権者が全てないしはほとんどが保証会社である消費者金融会社となり,債務総額が総量規制で上限とされた金額を大幅に上回るものも少なくない。当会の会員が受任した際の債権者が受任通知後に保証会社である消費者金融会社となり,債務者の収入に照らすと総量規制の趣旨に反する事例が相当数見られるが,このことはまさに総量規制の制度趣旨を没却するものと考えざるを得ない。
  3. 多重債務問題再燃の懸念
    上記のとおり,銀行等の消費者向け貸付けの残高や消費者金融会社による保証事業残高が右肩上がりで増加していることや銀行等が現に総量規制の対象とならないことを強調する宣伝広告,実際に借入残高が年収の3分の1を超えることになる貸付けが消費者金融会社の機関保証のもと行われている事例などの存在からすると,銀行等による貸付けにおいて,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような過剰貸付が増加することが容易に予測される。
    そうすると,深刻な多重債務問題が再燃することが強く懸念される。現に,平成28年度の自然人自己破産の新受件数は前年比で13年ぶりに増加に転じている。
    この傾向が続けば,再び,多重債務者・自己破産者が増加し,経済苦による自殺者が増加するなどの多重債務による社会問題が再燃しかねない。
  4. もともと,総量規制を定めた貸金業法13条の2第1項は,「返済能力を超える貸付け」を原則として禁止し,返済能力を超えるかどうかについて,「借入残高が年収の3分の1以内か否か」を一つの基準としたものである。
    貸金業法改正当時は,貸金業者の上限金利の引き下げが問題視されたこと,銀行等の消費者向け貸付けは貸金業者と比べれば相対的に少なかったことから,銀行等の貸金については規制対象とされなかった。
    しかしながら,総量規制が導入されたのが,返済能力を超える貸付を禁止し,返済困難状態や経済苦から派生する様々な社会問題を防止する点にあったことからすると,銀行等の貸付けについても,消費者の返済能力を超える貸付けであることに何ら変わりはない。
    特に,銀行等の消費者向け貸付けの際に,消費者金融会社の機関保証が付され,弁護士介入後には,そのほとんどの債権者が消費者金融会社となる場面においては,なお一層,貸金業法の総量規制の趣旨を没却するものといえる。
  5. 結語
    そこで,当会としては,
     ⅰ)国は,貸金業法13条の2等の規定を改正する等により,貸金業者が自ら貸付けを行う場合のほか,銀行等の行う貸付けに保証を付す場合についても,借入残高が年収の3分の1を超えないように総量規制の対象とすべきであり,
     ⅱ)銀行等は,少なくとも消費者金融会社による保証を付した消費者向け貸付けを行う際には,上記貸金業法13条の2の規定の趣旨を踏まえて,原則として,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを行わないなど,銀行等による貸付けが消費者にとって過剰な貸付けとならないように,消費者の実態を踏まえた適切な審査態勢を構築すべきであり,
     ⅲ)金融庁は,銀行等が消費者金融会社による保証を付した消費者向け貸付けを行う事例について調査するとともに,改正貸金業法の趣旨を踏まえて,原則として,借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを銀行等が行わないようにするよう,指針等に明記すべきであると考える。

以 上

戻る