2020.05.03

憲法記念日にあたっての会長談話

本日、日本国憲法が施行されて73年目の憲法記念日を迎えました。国民主権、基本的人権の尊重及び恒久平和主義がその基本原理であり、われわれ国民はこれらの基本原理にそって国政が運営されることを希求し、それぞれ不断の努力をしてまいりました。
ところで、政府により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象とする新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、令和2年4月7日、埼玉県を含む7都府県を対象として期間を同年5月6日までとする緊急事態宣言が発令され、同月16日にその対象区域が全国に拡大されました。
本年の憲法記念日は、緊急事態宣言が発令され、都道府県知事により、外出自粛の要請のほか、学校や公共施設などの利用停止の要請等、各種イベントの開催自粛の要請等がなされる中で迎えました。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響は世界各地に拡散し、全世界において甚大な被害を生じさせています。日本においても生活全般に影響が広がり、全国民が自身への感染を心配し、生活不安、事業の継続に対する不安が現実的なものとなっています。もちろん当会としても、新型コロナウイルス感染症の感染防止措置を講ずる必要性が極めて高いことに異論はありません。
しかしながら、感染拡大防止の観点を重視するあまり、必要最小限度を超えた人権制約、私権制限がなされてはなりません。

学校や学習塾、集会等を行う施設には休業を要請されていますが、子どもたちの学習の機会は平等に保障されなければなりませんし(憲法26条)、表現行為も過度に侵害されてはなりません(憲法21条1項)。

また、飲食店は酒類の提供を夜7時までとする営業の自粛要請がなされ、事業者は休業・時間短縮の営業等を行っていますが、これに対する国または自治体からの財政支援は不十分であり、中小企業や個人事業主への影響は甚大です。雇用調整助成金等の特例措置や緊急融資などもありますが、その手続きの難しさや支給まで時間がかかる等の問題があります。
休業や短縮した時間での営業を要請するのであれば、それと一体の補償や本格的財政支援が、迅速に、そして継続的に行われなければなりません(憲法29条3項)。

各地の裁判所においては、同年5月6日までに指定されていた期日の多くが延期されています。5月7日以降の期日指定等も不透明なままです。
刑事事件において、迅速な裁判を受ける権利(憲法37条1項)は、被告人の身体拘束の有無にかかわらず最大限尊重されなければならない基本的人権であり、特に身体拘束されている被告人にとっては、その長期化により被る不利益は甚大です。
期日が延期されたり、短時間だけの手続が繰り返されたりすることは、不要かつ不当な身体拘束の長期化にほかならず、到底許されるものではありません。
被疑者・被告人が身体拘束されている刑事収容施設で感染者が出た場合には、当該施設内で集団感染が発生し、被疑者・被告人の生命身体への危険を生じかねません。実際に、刑事収容施設の職員や被収容者が新型コロナウイルスに感染したとの報道もあります。
刑事事件のみならず、民事事件においても、期日が取り消され次回期日が指定されないままの現状が続けば、裁判を受ける権利(憲法32条)が害されることとなります。
一日も早く、延期後の期日が指定され、万全な感染予防対策を講じた中で速やかに裁判等の手続が再開されることを求めます。

このように、新型コロナウイルス感染症の対応にも課題が山積する中でも、安倍晋三首相は、4月7日の参議院議院運営委員会で、緊急事態に対応するための憲法改正について、「新型コロナウイルス感染症への対応も踏まえつつ、国会の憲法審査会の場で与野党の枠を超えた活発な議論を期待したい」と改憲論議が進むきっかけとなるとの期待を示したと報じられています。
 今回の極めて異例な新型コロナウイルスへの対応により、緊急事態条項に対する危機意識が低下した中で、国民に対し必要かつ十分な国政情報が提供されず、十分な議論が尽くされないままに、自民党が2018年に示したいわゆる自衛隊明記、内閣総理大臣に過度の権限を与える緊急事態条項創設を含む改憲が進められる危険性さえあります。

当会では、2008年5月24日に「日本国憲法の平和主義を堅持することを求める決議」を採択し、2015年5月28日にも「集団的自衛権行使を容認する違憲な閣議決定の撤回を求め、安全保障法制の制定に反対する総会決議」、2018年10月2日に「自衛隊を憲法に明記する憲法改正に反対する総会決議」を採択し、日本国憲法の平和主義や立憲主義を堅持するための諸活動に取り組んでまいりました。

当会においても、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、事務体制を必要最低限度に縮小し、面談による法律相談を一時停止するなどの措置を講じながらも、電話での法律相談業務を継続し、国や自治体に対して必要な申入れ等を行っていきます。
本日の憲法記念日に際し、まずは一日も早く新型コロナウイルス感染症の拡大が終息し、平穏な日常生活を取り戻すことを望みます。
そして、憲法9条改正の動きについては、これまでの当会の決議などに照らし、恒久平和主義との関係で重大な疑問があることを指摘し、また、国民に対し必要かつ十分な国政情報が提供されておらず、十分な議論が尽くされていない中で進められることに強く反対します。
併せて、日本国憲法の平和主義や立憲主義、基本的人権を守る活動に全力を挙げて取り組むことを誓うものであります。

以 上

2020(令和2)年5月3日
埼玉弁護士会会長  野崎 正

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