2020.03.13

備蓄用マスクの配布先から埼玉朝鮮幼稚園を除外したことに対し抗議するとともに,即時の配布を求める会長声明

1 声明の趣旨

さいたま市が新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とする備蓄用マスクの配布先から埼玉朝鮮幼稚園を除外したことに対して強く抗議するとともに,同幼稚園に対する備蓄用マスクの即時配布を求める。

2 理 由

  1. 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により,全国各地でマスク不足が深刻化するなか,去る3月6日,さいたま市の新型コロナウイルス危機対策本部員会議は,同市の保有する備蓄用マスク24万枚のうち,保育所,幼稚園,放課後児童クラブ,放課後等デイサービス事務所など1057施設の職員向けに9万3000枚,高齢者施設,介護施設などの職員向けに8万7000枚,合計18万枚を配布するとした。
    しかしながら,他方で,同市「子ども未来局」は,前記備蓄用マスクの配布先から学校法人埼玉朝鮮学園幼稚部(以下「埼玉朝鮮幼稚園」という。)を除外した(以下,「本件除外措置」という。)。
  2. 本件除外措置の理由として,さいたま市の担当者は,要旨,備蓄用マスクの配布に際し同市が指導監督できる権限があるか否かを基準にしたところ,私立幼稚園に対してはいわゆる幼保無償化の対象になったことで市に指導監査の権限が与えられているが(ただし,助成金による利用料無償化のための運営に関する指導監査に限られている(子ども子育て支援法58条の4第2項,特定子ども・子育て支援施設等の運営に関する基準(内閣府令)),埼玉朝鮮幼稚園は幼保無償化の対象になっておらず,この権限が及ばないため,対象から除外した等の説明を行った。
  3. しかしながら,今般,さいたま市が備蓄用マスクを配布するとしたのは,もっぱら同市内に通園,通所,在所等をする幼児や高齢者に対する新型コロナウイルスへの感染拡大を防止するという人道的・保健衛生的見地に基づく判断によるものであって,そこでは,同市による指導監査権限等の有無・程度等は本来問題とならないはずである。実際,さいたま市は,配布対象施設に対しマスクの使用状況等について報告を求めるといった指導監督をすることはない旨述べており,感染拡大防止という目的と指導監査権限等を有する施設への配布という手段との間には具体的関連性がないことを自認している。
    この点,埼玉朝鮮幼稚園は,埼玉県から認可を受けた学校法人が設置し幼児教育指導要領に準じた教育を行う私立幼稚園であるが,学校教育法上は,各種学校に位置づけられる。
    しかしながら,その実態は,支給対象となった正規の私立幼稚園(学校教育法1条)と何ら異ならない。すなわち,埼玉朝鮮幼稚園は,現在,未就学の園児41名及び教職員7名が在籍する。教育目的,教育内容,保育時間,施設設備,教職員数等において同種・同類の体制ないし実態を有しており,今回支給対象となった私立幼稚園と何ら異なるものではなく,それ故に,新型コロナウイルスの感染拡大を防止し,子どもの生命身体の安全を守る必要性は,正規の私立幼稚園と何ら異なるものではない。
    また,朝鮮学校は,同じ各種学校としての地位を有する「塾」や「自動車教習所」等とは異なり,先般の臨時休校要請や,休校等により保護者が休業した場合の助成金制度(「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」)の対象とされ,正規の私立学校と同列に扱われているのであるから,正規の私立幼稚園と区別することに合理的根拠はない。
    加えて,ウイルス感染拡大防止という子どもの生命に関わる事態に対し,助成金による幼稚園利用料無償化のための運営に限った指導監査権限の有無という関連性のない基準を持ち出して一線を画すことは,法的観点のみならず,人道的見地からも容認できないものである。
    したがって,埼玉朝鮮幼稚園は、法的な位置づけは各種学校ではあるが,その実態やウイルス感染拡大を防止する観点からみれば,他の私立幼稚園を区別することに合理性は全くない。
  4. このように,本件除外措置には正当な理由を全く見いだすことができないのであるから,同措置は,人種,民族,世系,国籍に基づく不当な差別にあたるというほかないのであって,憲法14条に違反することが明白であるのみならず,世界人権宣言,自由権規約2条1項,社会権規約2条2項,人種差別撤廃条約2条1項並びに子どもの権利条約2条1項及び24条1項等の人権諸条約に真っ向から違背するものというべきである。
    更にいえば,新型コロナウイルスの感染拡大を前にした市民が混乱状態にあるなか,さいたま市が埼玉朝鮮幼稚園だけを対象外とすることは,その意図に関わらず,同幼稚園に通学する幼児,その保護者,教職員等の関係者に対する不当な差別を自ら率先して行ったものと非難できる。
  5. 本件除外措置は,法的観点からはもちろん,人道的見地からも決して許されるものではないのだから,同措置に対し強く抗議するとともに,直ちに同措置を撤回し,埼玉朝鮮幼稚園に対して即時に備蓄用マスクを配布するよう求める。

2020(令和2)年3月13日
埼玉弁護士会会長  吉澤  俊一

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