2019.06.12

今夏の猛暑に備え刑事施設における十分な熱中症対策を求める会長声明

  1. 2007年8月,熊谷拘置支所で70代の労役場留置者が熱中症のため死亡した事案をはじめとして,各地の刑事施設における熱中症の発生,受刑者の死亡が度々報じられている。
    特に,2018(平成30)年は全国的に記録的な猛暑となり,同年7月,名古屋刑務所において熱中症のために受刑者が亡くなる事案が発生したことは記憶に新しい。
  2. 同年,川越少年刑務所さいたま拘置支所が所在するさいたま市においては,7月23日に最高気温39.3度(同地における観測史上最高)を記録し,7月,8月を通じて,最高気温が30度以上となる日(真夏日)は50日,最高気温が35度以上となる日(猛暑日)は23日(12日連続を含む)に及んだ。
    こうした猛暑は,地球温暖化に伴う異常気象の一環との見方もあり,今夏以降も同程度または昨年以上の猛暑に見舞われることが十分に予想される。
    熱中症防止のための刑事施設内の設備・処遇上の対策不備によって受刑者の死亡という結果が生じた以上,施設管理者の管理責任は厳に問われるものであり,再発防止策が不十分であるために今夏も同様の事件を起きるようなことは,あってはならない。国としては最大限の熱中症対策を講じて,今夏に備える必要がある。
  3. そもそも,法令による身体の拘束は,刑事手続の円滑な進行確保のための最終手段としての未決拘禁や,懲役刑等の自由刑の執行など,法の目的の範囲内で行われるものである。そのため,被収容者に対し,拘束の目的に照らしやむを得ない制限を超えた身体的な苦痛を与えることは許されない。
    しかしながら,エアコン等の空調設備すら設置されていない刑事施設内の環境は,被収容者を重度の熱中症に罹患させる現実的な危険にさらすものであり,もはや拘束の目的に照らしやむを得ない制限を超えた身体的な苦痛を与えるものとなっている。したがって現段階で空調設備が未設置の刑事施設においては,その早期の設置が急務である。
    また,空調設備を設置すれば熱中症対策として足るものではない。空調設備を設置済みの刑事施設においても,定期的に気温及び湿度を計測し,当該計測値に応じて水分・塩分を補給し,休憩を取り入れるなど,熱中症防止を考慮した処遇を行うことが望まれる。
    以上の通り,県内のすべての刑事施設において,速やかにエアコン等の空調設備を設置し,被収容者が熱中症に罹患しないための最低限度の環境を整えるとともに,処遇上も熱中症予防に配慮した対策を講じることにより,猛暑に備えた施設内環境を整備する必要がある。
  4. よって当会は,国に対し,エアコン等の空調設備がいまだ設置されていない刑事施設(埼玉県内では川越少年刑務所及び同さいたま拘置支所)において,今夏を迎える前に,エアコン等の空調設備を設置するとともに,すべての刑事施設において,熱中症を未然に防止すべく施設内環境を整備することにより,被収容者が,拘束の目的に照らしやむを得ない制限を超え,人として耐えがたい身体的苦痛と生命の危機にさらされる状況を解消する責任を果たすことを求める。

以 上

2019(令和元)年6月12日
埼玉弁護士会会長  吉澤 俊一

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