1997.05.26

裁判所速記官新規採用停止の撤回を求める会長声明

裁判所法第六〇条の二は、「各裁判所に裁判所速記官を置く。裁判所速記官は、裁判所の事件に関する速記及びこれに関する事務を掌る。」と規定し、裁判所速記官が弁論における陳述や証拠調べにおける証人の証言等を速記して逐語録を作成する職務を担うものとしている(民事訴訟法第一四八条、民事訴訟規則第九条の二ないし第九条の六、刑事訴訟規則第四〇条)。速記官が作成する速記録は、証人の身振り、手振りなどの音声にならない表現を記録するなど、法廷に実際に立ち会った者でなければできない正確かつ臨場的な記録が可能であり、裁判官でさえも速記録の内容について変更を命ずることはできず、速記録が裁判官の予断や心証から独立(記録の客観化)し、公正な裁判を担保するという重要な機能を有している。
ところが、最高裁判所はこの速記官による速記録を廃止して録音テープの反訳を外部業者に委託して調書を作成する制度に移行させるため、裁判所速記官の養成停止を方針として表明した。
当会は、昨年一一月二五日、速記官による速記録は右のように裁判の公正にとって不可欠であり、外部委託の録音反訳方式では代替し得ない重要な役割を果たしているとの認識から、前記最高裁判所の方針に反対し、速記官による速記録制度の維持拡充を求める会長声明を発した。また日本弁護士連合会も同年一二月二〇日の「録音反訳方式導入と速記官養成廃止に関する中間意見書」及び一九九七年二月二一日の「最終意見書」において速記官の養成を廃止することについて反対の意見を表明した。
それにもかかわらず、最高裁判所はこれらの反対意見を無視し、速記官の新規採用を来年度から停止することを決定した。複雑多様化する紛争の解決のため、正確かつ公正に記録する速記の必要性は高まりこそすれ減少することはない。速記官による速記録制度の維持拡充こそ「各」裁判所に速記官を置くとした法の精神である。最高裁判所の右決定はこの裁判所法をも骨抜きにするものであって、反対せざるを得ない。また、速記官の養成はいったん中止してしまうと、後に復活させることは極めて困難である。
よって、ここに当会は、最高裁判所の裁判所速記官新規採用停止の措置の撤回を求めて、この声明を発するものである。

1997(平成9)年5月26日
埼玉弁護士会会長  北條 神一郎

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