1998.02.21

裁判官の表現の自由、市民的自由についての会長声明

一九九七年(平成九年)一〇月二日付け朝日新聞朝刊「声」欄に、旭川地方裁判所寺西和史判事補が、「信頼できない盗聴令状審査」と題する投書が掲載されたのに対し、同月八日、同地方裁判所所長は同判事補に対し、下級裁判所事務処理令二一条に基づく書面による注意処分を行った。
同判事補の右投書による意見は、現在の令状審査実務の現状を指摘し、盗聴令状の立法化を批判する趣旨である。
現在の令状実務における却下率の低さを見れば、果たしてこれが正しく憲法・法律に則って運用されているのか疑問の多いところであり、そのような指摘は、これまでも我々弁護士のみならず、各界から表明されていた事柄である。
つとに指摘されてきたこの問題について、当事者である裁判官からその認識が示されたものであって、この問題をめぐる幅広い議論のためには、極めて有意義であるといわなければならない。
これに対して反対の見解を有する裁判官が、同じく意見表明を行うのならともかく、今回のような司法行政上の処分という形で意見表明そのものを禁圧するかのような対応にでることは許されるべきではない。
もとより裁判官も司法に携わるものとして意見表明の機会が保障されなければならないことは当然である。しかも、今回の論点は職業上の秘密に属するものではなく、また、裁判所内に限定された事象をあつかったものでもない。国民に対して直接行われる司法作用そのものについての意見である。
現在の令状実務の結果に即して批判的に論じたものに対して処分することは、裁判官全体に対し、このような意見表明に消極的になるのではないかと強く懸念され遺憾である。加えて、令状実務にあたる裁判官に対し、この問ぢあに対する現行実務の追認を事実上強制することにもなりかねず、裁判官の職務の独立性の観点からも重大な疑問を呈さざるを得ない。
当会としても、今後、裁判官の表現の自由をはじめとする市民的自由の保障について重大な関心をもってみつめると共に、令状審査実務の実情についても特段の関心をもって検討をしていきたい。

以上

1998年(平成10年)2月21日
埼玉弁護士会会長  北條 神一郎

戻る