1998.02.21

「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案要綱骨子」 に基づく立法化に関する決議

法務省は、法制審議会の答申を受けて、標記法律案要綱骨子(以下要綱骨子という)をまとめ、現在、国会上程へ向けた作業を行っている。

  1. 改めて指摘するまでもなく、憲法に定められた通信の秘密の不可侵は、個人の生活の秘密・プライバシーの保護、思想信条の自由・言論の自由と結びついて、市民生活上極めて重要な価値をもっている。私生活が国家から「のぞき見」されない権利は、自由権の根本をなすものである。
    しかし、今回の要綱骨子では、あまりに広範な通信傍受が認められ、右の原則をないがしろにし、もって秘密が守られるべき市民の私生活が容易に監視の対象になりかねない内容を含んでいる。
  2. 要綱骨子には次のような重大な問題点がある。
    対象犯罪が幅広く、本来の立法趣旨とされている組織的犯罪への対処の趣旨を超えている。
    別件の傍受や将来発生する犯罪をも傍受の範囲として認めており、結局、過去に行われた犯罪に関する事実を確定し証拠を収集するという犯罪捜査の概念を明らかに超えて犯罪予防活動と犯罪捜査活動の限度を曖昧にし、犯罪捜査の名による警察権限の濫用につながりかねない危険を有している。
    他に方法がないときにのみはじめて傍受が認められるという補充性の要件も、恣意的解釈の余地を残す曖昧なものとなっている。
    被傍受者への通知、不服申立て等の事後的措置が十分でない点も問題である。捜査官が作成した傍受記録を裁判官が保管することとなっているが、ここには、傍受すべき内容の記録がなされるが、これとは別に捜査官が「通信状況の見分」を行うことができることになっており、これについては、内容についての記録の保管が義務づけられていない。要するに、犯罪と直接に関係のない通信についても事実上全部傍受することができ、かつ、それを事後的に検証する方法もないのである。傍受記録に記載されない通信の当事者には、傍受した旨の通知さえも発せられない。
  3. そもそもこの要綱骨子においては、通信の傍受の一般禁止、令状違反の捜査官への重い犯罪規定などが定められておらず、全体的な姿勢として、通信の秘密の重要性に思いを致したものとはいえない。
    その他の諸点も含めて考えると、国民の基本的人権を擁護し、権力の濫用を防止する観点から、今回の要綱案骨子に基づく立法化には反対である。
    右決議する。
    1. 以上

      1998(平成10)年2月21日
      埼玉弁護士会臨時総会

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