1999.04.13

「組織的犯罪対策三法案」の立法化に反対する会長声明

昨年三月一三日、政府は、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案」、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案」及び「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(いわゆる組織的犯罪対策三法案)を国会に上程し、同法案は昨年六月衆議院で継続審議とされ、その後の臨時国会でも継続審議とされたが、今国会で法案の本格審議がされている。
当会は、昨年二月二一日の臨時総会において、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案要項骨子」に重大な疑問を呈し、これに基づく立法化に反対する決議を採択し、関係方面に警鐘を鳴らしたが、これを含む「組織的犯罪対策三法案」には以下のような問題点があるので、重ねて、会長声明を発して見解を表明するものである。

第一「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」(いわゆる盗聴法)について

捜査機関による通信の傍受はいわゆる盗聴であって、基本的人権として憲法二一条で保障された「通信の秘密」の侵害であり、憲法一三条で保障された人格権・プライバシー権の侵害である。この制限は極めて慎重でなければならない。
ところが、この法律には次のような看過できない問題点がある。

  1. 予備的盗聴(該当性判断のための盗聴)、事前盗聴(これから犯罪が行われる可能性のある場合の盗聴)、別件盗聴(被疑事実以外の犯罪についての盗聴)が認められているが、これらは「捜索する場所及び押収する物を明示する各別の令状」を定める憲法三五条に違反し、適正手続を定めた憲法三一条の規定にも抵触するおそれが強い。
  2. 盗聴は、本人への事前通告はなく、事後の通告制度・異議申立制度も不十分であり、個人情報のコントロールというプライバシー権保護の趣旨に反している。
  3. 現在の令状実務の現状からすれば、裁判所による濫用の防止は期待できず、また、法律が予定する立会人によるチェックもほとんど実効性がない。

第二「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」について

この法律の目的は、組織暴力団等による組織的な犯罪に対処するものと説明されているが、次のような問題点がある。

  1. 麻薬特例法や暴対法など既存の法律に基づく対策による限界が明らかにされておらず、新規に立法することの必要性が不明確である。
  2. 適用の対象とされる「団体」は、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体」であり、労働組合や市民団体などの団体も包含され、こうした団体や組織体の行う正当な活動に対して濫用される危険がある。
  3. 「犯罪収益」、「不正権益」などの基本的な概念の中身が曖昧で、拡大解釈されるおそれがある。
  4. 一定の犯罪の刑を加重することについて、現在の法定刑では不十分であるとする合理的理由が示されていない。
  5. 「犯罪収益」として没収される「混和財産」には、弁護士報酬等の正当な対価まで含まれることになる。
  6. 「没収保全命令」は、公訴提起前の段階における事実上の刑の執行であり、刑事法の無罪推定原則からの逸脱である。
  7. 金融機関に対して、「疑わしい取引」の届け出義務を課しているが、これは顧客に対する金融機関の守秘義務との関係で疑問があり、金融秩序に混乱をもたらすことになる。

第三「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(いわゆる証人保護法)について

この法律は、証人等に対する尋問に際して、証人等の住居、勤務先などの所在場所を特定する事項についての尋問を裁判長が一定の場合に制限できるようにするものである。
しかし、これらの事項は、弁護人の反対尋問において極めて重要な意義を持つ場合があるから、かかる事項についての尋問を裁判長の判断で制限することを明文で規定することは、反対尋問権に対する重大な制約であり、被告人の正当な防禦権を危うくすることになる。
以上のように、「組織的犯罪対策三法案」は、国民の基本的人権を侵害するおそれがあり濫用の危険が大きく、且つその立法の必要性は不明確である。

よって、当会は、「組織的犯罪対策三法案」の立法化には、強く反対する。

以上

1999年(平成11年)4月13日
埼玉弁護士会会長  村井 勝美

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