1999.05.22

「少年法等の一部を改正する法律(案)」に反対する決議

本年三月九日、政府は、「少年法等の一部を改正する法律(案)」を閣議決定し、今通常国会において改正を実現する姿勢を明らかにした。埼玉弁護士会は、会長を本部長とする少年法改正埼玉地方対策本部を設置し、地元選出国会議員に対する要請行動や「少年法改正反対署名」への取り組みを通じて反対運動を進めてきた。新聞報道等によれば本改正案に対する野党の根強い抵抗がありその成立には紆余曲折が予想されるとのことであるが、なお情勢は流動的であり予断を許さないところ、ここに改めて右改正案に反対する意思を明確にする。
右改正案には多くの問題点があるが、とりわけ以下の点は看過することができない。

第一 検察官関与の導入

長期三年以上の刑に当たる事件、被害者が死亡した事件の審判について、事実認定に止まらず処遇に関する検察官の関与を可能としている。しかし、刑罰法規の適用つまり処罰の請求を任務とする検察官に処遇への関与を認めることは、重罰化への途を開くのみならず、「少年の健全な育成を期す」という法の理念(少年法第一条)を根底から覆すものであり絶対に容認できない。また仮に、検察官関与を事実認定手続に限定するとしても、それは事実に争いのある場合に限定されるべきであるし、さらに、公正な事実認定を実現するためには、捜査の適正化、弁護人(附添人)の援助を受ける権利の確立、余談排除の原則の採用、厳格な証拠法則等の適正手続が保障されることが欠くことのできない条件となるが、本改正案はこの点について何の手当もしていない。

第二 観護措置期間の伸長

禁固以上の刑に当たる事件について非行事実の認定に関する証人尋問等が行われる場合には、通算して一二週間に及ぶ少年鑑別所への収容(観護措置)が可能となる。一定の限定は付されているものの、無罪推定を受けている少年の人身の自由を拘束する要件としては抽象的に過ぎるし、さらに観護措置更新の要件が全く機能せず更新(延長)が原則化されてきたこれまでの運用の実態をも踏まえると、長期間の身柄拘束が原則とされてしまう危険性が極めて高い。

第三 検察官への抗告権の付与

検察官が関与した事件の終局的決定について、一定の範囲で検察官に抗告権が認められている。しかし、これが認められると可塑性に富む少年がさらに長期間に亘って不安定な地位に置かれてしまい、非行事実の有無を迅速に認定し適正な処遇を早期に実施することにより少年の健全な育成を期すという法の理念に背馳することとなり、絶対に容認できない。

第四 改正作業手続

少年審判事件手続に関する規定は成人における刑事訴訟法に対応する規定、つまり、罪を犯したと疑われる少年に対しどのような手続を踏んで保護処分に対するのか付さないのか(成人でいう有罪、無罪)を決定するための制度であり、刑事訴訟法と並ぶ国家の基本的な手続法規である。かかる国民の権利・義務に関わる重要な法制度に関する改正作業が拙速になされるべきでないことはいうまでもない。一部の法律関係者に止まらず少年たちを含む国民各層の意見を広く聴取したうえで充分に議論を尽くし、子どもの権利条約や国連子どもの権利委員会勧告の趣旨を踏まえ、改正の必要性の有無、内容が検討されなければならない。しかし、今回の改正案作成に当たり、右に述べたような議論は一切なされていない。
埼玉弁護士会は、以上のとおり重大な問題点をかかえ、かつ極めて拙速な手続により法案化された本改正案に反対する。
右決議する。

以上

1999年(平成11年)5月22日 埼玉弁護士会定時総会

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