2001.06.28

司法制度改革審議会最終意見書に対する会長声明

1999年7月発足した政府の司法制度改革審議会は、本年6月12日約2年間の審議結果をまとめた最終意見書を内閣総理大臣に提出した。
この意見書で提起された、任用改革・他職経験・特例判事補解消などの裁判官制度の改革、裁判員制度の新設による市民の司法参加、被疑者に対する公的弁護制度導入、司法アクセスの改善などの提言は、ある面で、価値ある前進であると考える。私達は、改革審が提言した積極的部分については、これを重要な足がかりとして、今後会内外の取組を一層強めていく決意である。
しかしながら、意見書の底流にある、市場主義・グローバルスタンダードを基調とした政策と、そのためのセフテイネット整備が、真に国民の期待に応えるものであるかについて、疑問なしとしない。司法改革の基調は、憲法の保障する『裁判を受ける権利』の充実発展にこそ置かれるべきであると考える。
意見書では、司法官僚システムの抜本的改革であるべき法曹一元の導入は、部分的改善に止まって見送られ、国民の司法参加の眼目であるべき陪審制度についても、「裁判員制度」という極めて限られた制度に留まっている。
そして、刑事裁判については、代用監獄制度の廃止・人質司法の改善・証拠開示・捜査の可視化などについては、何ら具体的改善案が提示されないまま、「迅速化」の名の下に刑事手続の短縮化が求められ、さらに被疑者公的弁護制度の導入に併せて、国選弁護制度の裁判所外第三者機関導入すら提言されている。このように、意見書による刑事弁護制度の改善は極めて不十分であるとともに、危険な側面も存在する。
また、法曹人口の増大については意見書は極めて積極的であるが、最も急務であるべき裁判官増員が、最高裁のいう「今後10年間に約500人の増員」にとどまるものであれば、それは単に現状の部分的手直しを意味するものに過ぎず、国民の要求する水準には到底及ぶものではないことは明らかである。多くの裁判官が担当事件数の負担からひたすら事件処理に追われているような現状を改善し、充実した審理に基づく適切な判断を早期に下しうるためにも、裁判官を少なくとも現在の2倍程度に増員することが早急に実現されるべきである。
さらに、違憲立法審査権の行使のあり方、行政訴訟や労働関係事件の改革などについては、ほとんどその具体的方向性は示されていない。また、埼玉弁護士会として既に総会決議をもって強く反対していた「弁護士報酬敗訴者負担制度の導入」は残され、裁判所職員の増員は提言されているものの、速記官制度継続についても触れられていない。
この意見書については、法曹養成のための法科大学院構想など、司法改革提言として、極めて総合的で全面的なものであることから、一律の評価は極めて困難であるが、この実現が、市民のための真の司法改革としてその役割を果たし得るか否かは、立法その他の今後の施策にかかっていることは言うまでもない。
このため、私達は、法曹一元や陪審制度に向けて一歩でも近づくために、弁護士任官の推進や他職経験受入事務所の充実に努力し、また裁判員制度の導入については、刑事手続の抜本的改革と併せて、裁判員の構成比や役割を高め、弁護活動が制約されることのない被疑者の公的弁護制度の充実に努めるものである。さらに、司法へのアクセスについても、弁護士会の責任を自覚して、既に当会の司法制度改革埼玉地方本部が公表した『埼玉の明日の司法を改革する埼玉弁護士会の提言』(素案)を参考に、広く市民の声を聞き、市民と共にその一層の改善に努力していくつもりである。
埼玉弁護士会としては、弁護士会についても、弁護士自治を堅持しつつ、市民の声に十分に耳を傾け、市民と手を携えて、市民のための司法改革実現を目指して、努力していく決意である。

以上

2001(平成13)年6月28日
埼玉弁護士会会長  馬橋 隆紀

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