2003.01.21

簡裁判事・副検事経験者に 「準弁護士」資格を付与することに反対する決議

第1 決議の趣旨

最高裁判所と法務省は、簡裁判事と副検事経験者に簡裁事件を中心に弁護士業務ができるいわゆる「準弁護士」資格を付与することを提案しているが、準弁護士制度の導入には以下に述べる理由から反対である。

第2 決議の理由

  1. 準弁護士制度は、利用者の不便と混乱を招くおそれがあり、弊害が大きい。簡裁判事経験者は、相談や示談に関与できても訴訟になると簡裁民事事件に限定されることや、副検事経験者と同様に刑事事件の捜査段階は弁護ができても公判段階では簡裁固有の事件しか弁護できないことなど、準弁護士制度は、利用者の不便と混乱、さらには、経済的な負担をもたらすおそれが強い。特に民事事件では、準弁護士は裁判外での和解を行う権限を有しており、簡裁管轄でない和解事件について事件を準弁護士に依頼し費用を支払ったが、和解が成立しない場合に訴訟提起が必要となるが、訴訟提起では別の弁護士に新たに依頼をしなければならなくなるなど、利用者たる国民に二重の費用の支払いの問題や煩わしさ、混乱をもたらすことになる。
    刑事事件でも、憲法や審議会意見書は、刑事事件の捜査段階と公判段階とを一貫して弁護することを前提としていることは明らかであるが、この制度によれば、簡裁の管轄でない刑事事件の被疑者弁護を準弁護士に依頼して費用を支払った後に地裁に起訴されれば、同じく費用の二重払いや一貫して刑事弁護をしてもらえないという混乱や煩わしさをもたらすことになる。
  2. 簡裁判事・副検事の資格問題を考える前提として、簡裁判事及び副検事の任用自体に問題がある。本来ならば司法試験に合格し、司法研修所の研修を受けた法曹有資格者によりこれらの職務は担われることを原則とすべきであり、簡裁判事・副検事の資格は、かつて法曹資格を有する者の人数が足りず、その補填策として過渡的に認められた資格にすぎないものである。従って、簡裁判事・副検事の任用自体に、国民の権利を守るための能力担保措置という側面から重大な問題をはらんでいる。
    現在進められている司法改革は、質の高い法曹を大幅に増加させるべく提言され、制度改革が推進されているところであり、増加した有資格者から積極的に裁判官や検察官の採用を行い、簡裁判事・副検事の職務を行わせることにより問題は解消するのであり、その努力をすることこそ先決問題である。適正な試験に合格した法曹有資格者が大幅に増加するという現在の状況を前提とすれば、国家試験などの能力担保措置のない、例外的な準弁護士制度を作る意味も必要性もない。むしろ、国民の権利と利益を守るためには,このような例外的措置は解消する方向で考えるべきである。
  3. 簡裁判事・副検事は、もっぱら公務員の一部職種から内部試験で選考されたものであり、これら受験資格の制限された内部試験で登用される簡裁判事・副検事に、さらに「準弁護士」資格を付与することは官の優遇策であり、天下り先の確保であると考えざるを得ない。官僚司法から市民による市民のための司法へとの観点から進められている司法制度改革に逆行するものである。しかも、副検事経験者は、検察官として、捜査、訴追の側からの職務に従事してきた者であり、適性手続の保障等の憲法や刑事訴訟法によって保障された被疑者、被告人の防御権、弁護権を行使するという観点とは全く対立する立場のみの実務経験しか有しない者であり、このような副検事経験者が、弁護人を引き受けたときに、被疑者・被告人の人権を守ることが出来ないのではないかというおそれを否定出来ない。
  4. 司法アクセスの改善や弁護士過疎の解消は、法曹人口の増加に加えて、日弁連・弁護士会が取り組んでいる全国の法律相談センター活動、公設事務所の推進、地域司法計画の展開、法律扶助制度の拡充などにより解決されるべきであり、現にその方向で大きく前進しているところである。全国で退職者の合計年間90名弱程度の簡裁判事・副検事の定年退職者に、わかりにくい限定された資格を付与することが、司法過疎対策や司法アクセスの解消に結びつくものではない。
  5. 司法改革審議会意見書に基づき、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の下で、より高い資質・能力を確保しつつ、法曹の大幅増員による司法改革を推進しているときに、国家試験などの能力担保がなく、且つその職務も限定され、利用者に不安や混乱をもたらす弊害の多い資格制度を新設することは、そもそも審議会意見書の基本理念にも反するものである。
    改革審意見書の基本理念に沿って、最高裁や法務省も含めた国が実現すべきことは、法曹有資格者の大幅増員に伴い、簡易裁判所でも全件について法曹有資格者である裁判官による裁判を実現できるように漸次移行措置をとり、また検察庁においては副検事が担っている仕事について法曹資格を有する検事によるものへと漸次移行させるよう全力を尽くすことである。
  6. 準弁護士制度は、以上のとおり、利用者たる国民の不便と混乱を招くおそれがあり、弊害も大きく、官の優遇策、天下り先の確保ともいうべきものであり、司法改革の基本理念に反し、制度の必要性も存在しない。よって当会は強く反対するものである。

以上のとおり決議する。

2003年(平成15年)1月21日
埼玉弁護士会会長  柳 重雄

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