2003.12.12

自衛隊のイラク派遣に反対する会長声明

本年11月29日、イラク北部において、わが国外務省の外交官2名が何者かの銃撃により殺害された。極めて遺憾な事態であり、ここに謹んで哀悼の意を表する。
政府は、去る12月9日、「イラク特措法」4条に基づき、自衛隊をイラクへ派遣するための「基本計画」を閣議決定した。

  1. しかしながら、日本国憲法は、徹底した平和主義を採り(前文、9条)、特に「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めている(9条1項)のであって、イラク国内における自衛隊の武力行使を容認するイラク特措法(17条)が、この憲法原理・規定に抵触する疑いは極めて強いのであり、当会は、その制定に反対するとともに、その廃止を求めてきたところである。
  2. そもそも、国際社会は、1928年の「不戦条約」発効後に勃発した第2次世界大戦を経て、国際連合憲章において、たとえ自衛権の行使といえども、「武力攻撃が発生した場合」に、「安全保障理事会が国際の平和と安全の維持に必要な措置をとるまでの間」に限って認められるという厳格な制限を設けたのである(国連憲章51条)。
    したがって、イラクが何らの武力攻撃に出ていない段階において開始された米英のイラク攻撃は、この国際法の基本原則に明らかに抵触している。また、「大量破壊兵器」が未だ確認されない現状では、その開戦の大義に対する疑義はもはや否定すべくもない。何より、米英軍の武力攻撃によって、夥しいイラクの人々が犠牲となり、しかも、本年5月1日のブッシュ米国大統領による「戦闘終結宣言」の後においてもなお、連日のように米軍等に対する武力・自爆攻撃などの抵抗が生じ、これに対する報復としてのさらなる米軍等の武力攻撃により、イラクの人々の犠牲は増える一方である。また、かかる抵抗により、米軍をはじめ参戦各国軍の兵士等の死傷者も、日々増大している。
  3. このような状況のため、スペイン等は自国外交官等を撤収し、さらに国連現地事務所や赤十字国際委員会までもが、その要員を撤収しているのであり、また、米国から要請されていたトルコやインドも派兵を見合わせ、パキスタンも派兵に応じていない。
     しかるに、政府は、イラク特措法にいう「戦闘行為」に「テロ」や「ゲリラ」による武力・自爆攻撃が含まれないことを強調して、かような治安状況にあるイラク本土に、自衛隊を派遣し「人道復興支援活動」に従事させようとしている。しかしながら、武装し軍服を着用した自衛隊員は、まさに「軍隊の兵士」以外の何者でもなく、時に武力行使に及んでイラクの人々を殺傷する事態に至ることも強く懸念されるところである。かかる事態が現実となれば、これが徹底した平和主義を採る日本国憲法と相容れないものであることは、論をまたない。
  4. 今、真に求められるべきことは、イラクの人々による安定した統治機構の枠組みづくりのはずである。その上ではじめて、治安の維持・回復もなしえ、また、その生活及び産業基盤たる社会資本の復興・整備も期待できるのである。
     この枠組み構築の支援・協力を担うのは、世界の平和と安全の維持及び国際協力と福祉増進を主要目的とする国際連合以外にはない。そして、平和憲法を掲げ、国連中心主義を標榜するわが国に求められるのは、かかる国連による支援・協力態勢実現のための大いなる外交努力なのである。

以上の次第で、当会は、イラクへの自衛隊派遣に断固反対し、政府・国会に対し、直ちに、イラク特措法を廃止することを強く求める。

以上

2003年(平成15年)12月12日
埼玉弁護士会会長  難波 幸一

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