2004.04.21

裁判員法案及び刑事訴訟法一部改正案についての 埼玉弁護士会会長声明

政府は,今通常国会に司法改革関連法案を提出し,現在これが審議されている。
これらの法案は,一連の司法制度改革のなかでも特に重要なものであり,とりわけ,国民の司法参加を定めた「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(裁判員法)及び刑事訴訟手続の充実迅速化のための方策として提案されている「刑事訴訟法の一部改正案」は,黙過できない重要な問題点をはらんでいる。
すなわち裁判員制度は,戦前の一時期導入された陪審制以来,戦後初めて,裁判官でない国民が裁判手続に実質的に参加する仕組みであり,国民の司法参加という理念に照らし,その導入には賛同できる。しかしながら,現在審議中の裁判員法及び刑事訴訟法改正案には,以下に述べるような問題点があり,国会審議において修正されるべきである。

第1に,裁判員の参加する合議体の構成は,裁判官3人に対し,裁判員6人とされている。
しかし,裁判官と対等に意見を述べあい,裁判員の意見を判決に反映させるためには少なくとも裁判官の3倍以上の裁判員が必要であり,できる限り,それに近づけるべきであって,裁判官2名・裁判員7名とするか,または裁判官3名・裁判員9名と修正すべきである。

第2に,評決手続について,法案は,有罪の決定及び量刑判断ともに,裁判官・裁判員の合議体の過半数であって,かつ裁判官及び裁判員のそれぞれ1人以上が賛成する意見によるとしている。 しかし,合理的疑いを残さない立証の必要性や充実した評議を確保するためにも全員一致を目指して評議を尽くすべきことを定め,かつ,3分の2以上の特別多数決を評決の要件とするよう修正すべきである。

第3に,裁判員(補充裁判員を含む。以下,同じ)の守秘義務について,違反した場合の懲役刑を含め,一生涯,評議内容など裁判経過について秘密漏示を禁止されるだけでなく自身の意見や当該裁判の当否について意見を公表することも禁止されている。 しかし,かかる厳格な守秘義務規定は,裁判を評価するための資料を国民から奪うことになり,また重罰を恐れて,必要以上に裁判員を萎縮させ,ひいては裁判員になることを辞退する傾向を強め,「国民の誰もが司法に参加できる」裁判員制度の理念を損なう結果につながる。 よって,裁判員の守秘義務の範囲は,評決における意見等,裁判員制度の運用に不可欠な範囲に限定するとともに,違反に対する罰則からは懲役刑を削除すべきである。

第4に,裁判員に対する接触禁止規定が保釈不許可事由と結びつけられているため,長期間の身柄拘束が常態化している現状をさらに悪化させるおそれがある。
かかる規定は,現行刑訴法の保釈不許可事由とされている「罪証隠滅のおそれ」の拡張解釈の実情に照らしても,厳格な歯止めの規定が必要であり,また起訴前保釈制度の創設など保釈や勾留など身体拘束制度の抜本的改革が求められる。

第5に,刑事手続きの充実・迅速のための方策として提案されている刑事訴訟法改正案には,開示証拠の目的外使用の禁止,尋問制限命令違反に対する処置請求要件の緩和,公判前整理手続における事実取調の内容とその後の立証制限規定など被告人・弁護人の防御権に重大な影響を及ぼす規定が盛り込まれている。
かかる規定については,被告人・弁護人の防御権の確保,裁判の公開などの観点から,条項の削除ないし修正がされるべきであり,また取調過程の録画や証拠開示の徹底など直接主義・口頭主義の実質を高めるための方策が講じられなければならない。

以上述べたように,裁判員法案及び刑事訴訟法の一部改正案は黙過できない問題点を含んでおり,国会審議を通じての修正を求める次第である。

以上

2004年4月21日
埼玉弁護士会会長  中山 福二

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