2006.02.10

教育基本法改正法案国会上程に反対する会長声明

  1. 政府・与党は、本年1月20日に召集された今通常国会に教育基本法改正案を提出するべく、与党間の調整を行っている旨の報道がなされている。しかし、同法の改正には以下に述べるような重要な問題点が存在するので、断固反対する。
  2. 政府・与党の企図する教育基本法の改正の論拠は、2003年3月の中央教育審議会の答申において示されているように、日本社会は現在、自信喪失感や閉塞感の広がり、倫理観や社会的使命感の喪失、少子高齢化による社会の活力低下、経済停滞と就職難などの危機に直面しており、教育の面でも、青少年の規範意識や道徳心の低下、いじめや不登校、学級崩壊、学ぶ意欲の低下など多くの課題を抱えており、今日本の教育を根本から見直し、新しい時代にふさわしく再構築することが求められている、というものである。
    しかしながら、日本社会が直面する自信喪失感や閉塞感の広がり、経済停滞と就職難などは、政府が推し進めている経済政策・社会政策の結果であって、教育基本法の欠陥によるものではないことは明らかである。 いじめや不登校、学級崩壊、学ぶ意欲の低下など教育現場の問題も、それが教育基本法の欠陥によるものと見ることはできない。それはむしろ、エリート養成や受験対策を偏重する先進国のなかでも過度に競争的な教育システムに主要な原因がある。
    倫理観や社会的使命感の喪失、青少年の規範意識や道徳心が低下といった指摘については、災害時や海外援助における青年ボランティアの活性化や統計的には青少年犯罪は減少傾向にあることなどに照らすと必ずしも真実とは言えない。
    現行の教育基本法を改正する必要性はないと言うべきである。
  3. 他方、中央教育審議会の答申は、変更すべき点のなかで、教育の基本理念の中に、「公共」の精神、道徳心、日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心を育てることを加えるべきことを強調する。
    また、与党の教育基本法改正協議会の中間報告(2004年6月)においては、現行法の「平和な国家及び社会の形成者」「個人の尊厳を重んじ」という文言を削除し、改正法に「公共の精神を重んじ」「「郷土と国を愛する」などの文言を盛り込もうとしている。このことは、自民党などが企図する日本国憲法の前文・9条2項の削除や自衛隊の軍隊としての明確化、自衛隊の海外派兵、防衛庁の省への昇格などとも符合するものである。
    もとより、教育基本法は、個人の尊厳と人権を重んじ、平和国家を目指す日本国憲法の下で、真理と平和を希求する人間の育成のために制定されたものである。教育のなかに愛国心の強要を持ち込むことは許されず、そのことは日本国憲法第19条が定める思想、良心の自由にも反する。
  4. 上記のとおり、政府・与党の企図する教育基本法改正の今国会への上程は、その本来の必要性を全く欠くものであり、むしろ憲法違反のおそれさえあるものであるから到底容認することができない。よって、その上程には断固反対する 。

2006年(平成18年)2月10日
埼玉弁護士会会長 田中重仁

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