2008.05.14

特定の映画への政治的圧力に抗議し、表現の自由保障の徹底を求める会長声明

  1. 本年2月から3月にかけて、靖国神社を題材にしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」に関し、一部国会議員が、文化庁に対し劇場公開前に国会議員だけを対象とする試写会の開催を要請し、あるいは、国会においてこの映画に政府の出資する芸術文化振興資金から製作助成を受けたことを政治性があるとして問題視する質問を繰り返した。

    このような動きが表面化したところ、同映画の上映を予定していた映画館の多くが右翼団体による妨害等を懸念して上映予定を撤回するという事態が生じた。

  2. 国会議員が劇場公開前の特定の映画の試写会を政府に要請し、その映画を問題視する政治行動をとることは、憲法が禁ずる検閲に等しく、それは、国民・市民が当該映画の内容を知る権利を制約する結果にも繋がるものであり、到底看過することはできない。

    そもそも、表現の自由は、民主主義を支える必要不可欠の基本的人権であり、国政上、最大限保障されなければならない。そして政治権力に携わる国会議員は、憲法を尊重し擁護する義務を負うのである(憲法99条)から、国民・市民の表現の自由が萎縮することのないよう慎重の上にも慎重な行動が求められる。

    今回の国会議員による政治行動は、まさに政治的圧力といわねばならず、それは表現の自由に対する重大な侵害行為と非難されねばならない。

  3. また、映画「靖国 YASUKUNI」は、日本在住の中国人監督が靖国神社問題をテーマに、「8月15日」の靖国神社の様子などを取材し製作したもので、その内容は、日本の明治以来繰り返してきた数多くの侵略戦争に関わる歴史認識に対する判断材料を国民・市民に提供するものである。

    かかる映画に対する政治的圧力は、国民・市民から、この国の侵略戦争に関する歴史認識の醸成や反省の機会を奪うことになるもので、それは、とりわけ先の大戦における加害の歴史の反省に立脚した日本国憲法の恒久平和主義に対する逆流でもある。

  4. よって、当会は、ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」への一部国会議員の政治的圧力の事実に強い抗議の意を表明するとともに、政府・国会に対し、表現の自由の保障の徹底を強く求める 。

以上

2008年(平成20年)5月14日
埼玉弁護士会 会長  海老原 夕美

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