2008.08.01

違法派遣業者グッドウィルの廃業を契機に、労働者派遣法の抜本改正を求める声明

  1. 派遣業界最大手のグッドウィルがその全事業を廃止した。同社は、これまで自らの利潤を追求するために、現行の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以下、単に労働者派遣法と言う。)でも禁止されている港湾運送や建設業務への派遣、二重派遣、労災隠しなど種々の違法行為を繰り返してきた。同社の廃業は、今般、厚生労働省が同社の派遣業の許可を取り消す方針を示したことを受けたものである。グッドウィルが繰り返していた違法行為の態様に照らせば、厚生労働省の今回の対応は、むしろ遅きに失したと言える。政府は、同社の廃業により失職する派遣労働者と同社従業員の雇用対策を講じるとともに、派遣規制の在り方を見直すべきである。
  2. 1985年の労働者派遣法成立以来、派遣規制は一貫して緩和されてきた。1999年には派遣労働の対象業務にネガティブリスト方式(禁止業務をリスト化する方式)が取られ、派遣労働が原則自由化されるとともに、2003年には、物の製造業務も派遣労働の対象とされるに至った。そして、相次ぐ労働者派遣の規制緩和と企業のリストラ「合理化」が相まって、今日では、派遣労働者は320万人を超え、そのうち7割は日雇い派遣など登録型派遣である(厚生労働省:労働者派遣事業の平成18年度事業報告の集計結果について)。
  3. 派遣労働者は、常に期間満了による雇い止めの不安にさらされ、しかも、正規労働者との差別的な低賃金を余儀なくされている。現在、年収200万円以下の労働者は1000万人を超え、普通に働いても生活保護水準以下の生活から抜け出せない世帯は450万~600万世帯にのぼると言われているが、このなかに多くの派遣労働者が含まれている。派遣労働者は、将来に希望を持って安心して働くことができず、将来不安のために結婚や出産さえもためらわざるを得ない境遇におかれていると言われる。
    なかでも日雇い派遣労働者は、極めて劣悪な雇用条件のもとに、いわば「使い捨て」状態におかれ、居住アパートを確保できない「ネットカフェ難民」などに落ち込むケースも少なくない。
    このような派遣労働者の労働実態は、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生 活を営む権利」を保障する憲法25条、そして、すべての労働者に人間らしく働くための労働条件を法律で保障しようとする憲法27条を侵害するものというほかない。
  4. 日本弁護士会連合会は、本年6月21日、「全国一斉非正規労働・生活保護ホットライン」を実施し、全国で1300件を超える相談が寄せられた。当会では特に24時間 夜通し相談を行ったが、274件もの相談が寄せられ、電話アクセスは1万件を超えた。非正規雇用問題の深刻さとそれが重大な人権課題であることを改めて知ることとなった。
  5. 厚生労働省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」は、先月28日、日雇い派遣の原則禁止など派遣規制の強化に向けた報告書を公表した。しかし、その内容は、日雇い派遣の原則禁止、派遣会社に対する派遣手数料の開示義務化、特定企業だけに労働者を派遣するいわゆる「専ら派遣」の規制強化等にとどまっており、対策としては不十分である。
    派遣労働者の労働環境を改善するために、派遣労働を臨時的かつ専門性の高い業務に限定すること、派遣先の正社員との均等待遇を義務づけること、弊害が特に顕著な登録型派遣を禁止することなどを含む労働者派遣法の抜本的な見直しが今こそ図られなければならない。
    深刻化する貧困と格差を克服し、労働者が人間らしく働くための労働のルールを確立するため、埼玉弁護士会としても引き続き全力を尽くす決意である 。

以上

2008年(平成20年)8月1日
埼玉弁護士会 会長  海老原 夕美

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