2008.11.11

死刑執行に対する会長声明

本年10月28日、仙台拘置支所及び福岡拘置所において各1名の死刑確定者に対する死刑が執行された。これは本年に入り実に5回目の執行であり、その合計は何と15人を数えるに至っている。 当会は、これまでも、政府に対し、死刑制度に関する十分な情報を広く市民・国民に提供することを前提に、死刑の存廃についての国民的議論が尽くされるまで死刑を執行しないよう強く求め続けてきたものである。この度の執行に対しても、改めて、強く非難する。
1989年12月の国連総会の「死刑廃止条約」採択以降、死刑廃止国・地域が年々増加し、現在は事実上の廃止国・地域48を含め141に上る。これは、死刑存置国・地域56の優に倍以上の数であり、死刑廃止が国際的潮流であることはまぎれもない事実といえる。そして、2007年12月には、国連総会において、すべての死刑存置国に対し死刑執行停止を求める決議が圧倒的多数で採択されてもいるのである。
しかるに、昨今の日本では死刑判決や死刑執行の数は顕著な増加傾向を示しており、本年の執行状況などはまさにかかる問題状況を強く反映するものといえる。こうした日本の深刻な現状に鑑み、2007年5月には国連拷問禁止委員会から日本政府に対し死刑執行を速やかに停止すべきこと等が勧告され、さらに、本年5月には国連人権理事会第2回定期的普遍審査において死刑執行の継続に対する懸念が多数表明され、改めて日本政府に対し死刑の執行停止が勧告されている。加えて、本年10月15日及び16日には、国連規約人権委員会による日本政府報告書に対する第5回審査が行われ、そこでは特に、死刑判決に対する上訴が義務的とされていない日本の刑事訴訟制度に対する深刻な懸念が示されたところであった(今回の被執行者の1人は、控訴審で原判決破棄の上で死刑判決を受け、その後上告を取下げた結果、死刑判決が確定した)。そして、同委員会は、同月30日、同審査に基づく「最終見解」を公表し、その中で、日本政府に対し、「(国内の)世論調査に関係なく死刑制度の廃止を検討すべき」旨を勧告したのである。
このような中でのこの度の死刑執行は、日本政府が、国連の度重なる要請を一顧だにせず、批准した各人権条約を尊重する意思に乏しいことを国際社会に強く印象づけるものであり、憲法98条2項の「国際協調主義」の精神にも悖るものである。
以上から、当会は、政府に対し、今回の死刑執行について厳重なる抗議の意を表明するとともに、これ以上の死刑は絶対に執行しないこと、死刑制度に関する市民への十分な情報提供のうえでの死刑存廃に関する国民的議論の喚起を強く求める。
そして、死刑問題が人権問題であることを直視して、死刑事件も対象となる裁判員制度が施行されるまでには、少なくとも、死刑執行停止制度を立法化するよう重ねて求めるものである。

以上

2008年(平成20年)11月11日
埼玉弁護士会 会長  海老原 夕美

戻る