2009.02.10

ソマリア沖での自衛隊による海上警備行動に反対する声明

本年1月28日、政府は、ソマリア沖海賊対策のために、自衛隊法82条による海上警備行動として、海上自衛隊をソマリア沖に派遣する方針を決定した。これを受けて、浜田防衛大臣は派遣準備指示を出し、現在、派遣に向けた準備が行われている。また、政府は、海賊対策のため自衛隊を海外へ派遣する根拠法となる新法の成立を目指しており、自衛隊法による海上警備行動はそのための暫定措置と位置づけられている。
しかしながら、ソマリア沖での海賊対策のために自衛隊を派遣することは、以下に述べるとおり、憲法及び法治主義に抵触するおそれが極めて高いものである。

第1に、
自衛隊法82条による海上警備行動は、自衛隊法3条1項の「必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」とする任務を具体化したものであり、その行動は領海の秩序を維持する目的の範囲内に止まるものである。しかし、今回の海上警備行動の発令は、領海を越えてはるかソマリア沖まで海上警備行動の範囲を拡大するものであり、自衛隊法の趣旨を大きく逸脱するものである。
このような法の趣旨を逸脱する派遣の先例を許すならば、「海上交通路(シーレーン)の安全確保」という名目さえ掲げれば、「公共の秩序の維持に当たる」任務を世界規模に拡大することまでも可能にし、自衛隊の海外派遣に対する制約をなし崩しにすることにも繋がるものである。
のみならず、今回の海上警備行動の発令そのものが、行政府が立法府の定めた自衛隊法に反する行動を自衛隊に命じるものであり、まさに法治主義の根幹を揺るがすものである。

第2に、
本来、「海賊行為」は犯罪行為であるから警察権により対処されるべきもので、海上の安全・治安の確保という海上警察権の行使は海上保安庁の任務である。もとより、同任務は主権の発動であるから、領海外で警察権を行使する場合には、国内法および国際法に準拠することが求められるところ、海上保安庁法は、日本の領海を遠く離れた区域での海賊行為に対する警察活動は想定していない。
したがって、海上保安官および巡視艇を直接派遣することは例え暫定措置だとしても問題であり、この点の特別立法の必要性も含めて国会で十分審議を尽くすべきである。

第3に、
日本国憲法9条は、武力の行使はもとより武力による威嚇を国際紛争を解決する手段として永久に放棄しており、これにより自衛隊の海外での武力行使は当然に禁じられる。確かに、ソマリア沖の海賊行為は深刻な国際問題であり、国連安保理において、昨年6月、ソマリア暫定政府と協力する加盟各国に対し、国連憲章第7章のもと、ソマリア領海内で海賊行為を制圧するためのあらゆる必要な措置を講じることを認める決議1816号が採択され、その後、この決議の適用期間を延長した同年10月の同決議1838号に続き、同年12月には、ソマリア領内で海賊行為を計画・実行等する勢力を阻止する目的で適当と思われるあらゆる手段を講じることを認める同1851号決議が採択されていることは重く受け止めるべきであろう。
しかしそうだとしても、国際社会の中で、日本が他国と協力して行う行動は日本国憲法の枠内で行われるべきは当然の前提である。しかるに、この度の政府命令による海賊行為への対処は自衛隊が組織としてその任務に当たるものであり、おのずから武力行使に至る危険性を孕むものである。しかも、前記安保理決議が海賊行為を「国際の平和と安全に対する脅威」とみなして、武力行使を含む「あらゆる必要な措置を講じること」を認めているのであるから、現在のように各国の軍隊が展開している海域に自衛隊が派遣されたならば、武力行使にいたる蓋然性が非常に高いといわねばならない。
したがって、政府命令により海賊対処のためソマリア沖へ海上自衛隊を派遣することは、まさに憲法9条に抵触するおそれがある。

そもそも、ソマリアの海賊問題は、これを生み出している根本要因への対応なくして問題解決はない。海賊問題を生み出す要因として、内戦状態下での中央政府の機能不全、経済状態の悪化、国民生活の疲弊という同国特有の異常な状態が指摘されている。
そして、戦争放棄から戦力不保持・交戦権否認までを含む恒久平和主義を原理に掲げる憲法のもとにおいて、日本が国際社会の中で果たすべき役割は、国際社会における非軍事アプローチを主導することにより上述の根本要因を解決することであって、具体的には,人道支援協力・経済支援協力・技術支援協力であると確信する。
よって、当会は、ソマリア沖における海上警備活動を任務とする自衛隊派遣に強く反対するものである。

以上

2009年(平成21年)2月10日
埼玉弁護士会会長  海老原 夕美

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