2009.03.17

カルデロン・アラン・クルズさん一家の在留特別許可及び 法制度の改善・整備を求める会長声明

法務大臣及び東京入国管理局は、「在留特別許可」を求めてきた埼玉県在住のカルデロン・アラン・クルズさん一家に対し、昨日、のり子さんにのみその在留を特別に許可したが、それは、強制送還の威嚇を背景に、アランさんとその妻サラさんにのり子さんを日本に残して帰国することを承諾させたうえでのものであり、当会は、政府当局のかかる対応について、以下の理由から強く抗議する。

  1. 今回の政府当局の一連の対応は、カルデロンさんたち家族全員に対する退去強制令書発布処分の取消等請求訴訟に対する請求棄却判決が2008年9月に確定したことを契機としたものではある。しかし、そもそも、この当局の対応は、「子どもの権利条約」9条1項の「締約国は、子どもがその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する」とした「父母からの分離禁止」規定に抵触するものである。同条につき日本政府は、「出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解釈する」との解釈宣言を出しているが、国連子どもの権利委員会より、1998年及び2004年にわたり当該解釈宣言の撤回を求める趣旨の勧告が繰り返されているように、かかる日本政府の解釈は国際社会で受け入れられるものではない。
  2. また、子どもの権利条約は、その3条で「子どもの最善の利益」の考慮について規定するとともに、12条で、子どもに影響を及ぼすすべての事柄について「自由に自己の意見を表明する権利」を保障し、併せて、表明された意見がその年齢および成熟度に従い正当に尊重される旨規定している。
    日本で生まれ、日本の普通教育を受け、良好な社会関係を形成してきたのり子さんにとって、両親とともに日本での生活が保障されることが最善の利益であり、それを望んでいることは明確に述べられているところである。これに対して、政府当局は、この間、のり子さんの両親にはフィリピンに退去する以外選択肢を与えないまま、専ら、満13歳に過ぎないのり子さんに単独での在留か両親と一緒の退去かという過酷な選択を迫ってきたのであり、それ自体がかかる「子どもの意見表明権」の保障と矛盾するというべきである。
  3. さらに、「自由権規約」は、その17条1項で家族への恣意的な干渉の禁止を定めるとともに、23条1項で「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する」ことを保障し、且つ、24条1項で、家族、社会、及び国による子どもの権利保障を規定して、子どもに各人が属する家族という単位での保護の権利を認めているところである。この点につき、国連自由権規約委員会は、2001年7月、豪州における「出入国管理法」違反の事案について、当該事案の子どもが同国で出生後、同国の学校に通い、そこで社会関係を築きながら13年間同国で育ってきたという時間の経過を考慮すると、その両親の国外退去処分は「出入国管理法」違反を理由とするだけでは正当化されないとして、自由権規約の当該各条項違反を認定しているのである。
    この認定判断はまさにのり子さんの両親の場合にも妥当するものであり、日本も自由権規約の批准国としてかかる判断を尊重する義務があることに鑑みれば、両名を出入国管理法違反のみを理由として退去させることは、本来、同条約に抵触するものとして許されないはずである。
  4. よって、当会は、法務大臣及び東京入国管理局長に対し、自由権規約及び子どもの権利条約の諸規定に抵触する結果を招来することのなきよう、方針を転換して、アランさんとサラさんについてもその在留を特別に許可するよう強く求めるものである。
    併せて、改めて政府・国会に対し、直ちに、同種のケースにおいて子どもの人権が侵害されることなく、その最善の利益が確保され得る法制度の改善・整備を求める 。

以上

2009年(平成21年)3月17日
埼玉弁護士会会長  海老原 夕美

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