2009.03.17

住居喪失者・DV事件被害者等の 定額給付金の受給に関する会長声明

2009年3月4日、国会の決議を経て、定額給付金の支給が正式に決定された。定額給付金の支給が景気対策や生活困窮者に対する抜本的対策になるのかについては疑問があり、また、その制定過程においても疑問があるところではあるが、同給付事業の概要によると、給付対象者は、本年2月1日(基準日)時点において住民基本台帳に記録されている者、申請・受給者は給付対象者の属する世帯の世帯主とされている。
ところで、現下の不況化で大量に生み出されつつある、いわゆる「派遣切り」による住居喪失者、「ネットカフェ難民」などを含むホームレス状態にある人々も存在する。また、離婚事件等においては、いわゆるDVにより生命・身体に対する危険があるために住民票の異動をせずに居所を隠して生活しているDV事件被害者やその子どもたち、実際には別居しているが様々な理由から離婚問題が解決するまでの間住民票を異動できない者、あるいは前記基準日以降に離婚が成立した者などが存在する。これらの人々こそ最も生活に困窮しており、定額給付金の受給を最も必要とする人々であると思われる。
しかし、上記基準を形式的に適用すると、これらの最も生活に困窮していると思われる人々が、定額給付金を受けられないこととなる。
これに対し、総務省は、「路上生活者などで本来の住所地での不在期間が長く、住民基本台帳から消されている場合は、知人宅などに身を寄せるなどして住民登録をし、DV被害者は、居住する市町村に住民基本台帳についての支援措置の実施を申し出て、加害者である配偶者による住民票の写しの交付等を制限した上で、実際に居住する住所において住民登録を行うことにより受給できる」などと説明している。
しかし、すでに基準日とされる2月1日を経過してしまっている以上、これから住民票を異動しようと考える者にとっては、給付金を受領する手だてがもはや失われてしまっている。また、DV被害者などが形式上の世帯主に対して定額給付金の引き渡しを求めることは、極めて困難であるし、現実に世帯主から定額給付金を受け取らないこととなる事案が数多く発生することが予想される。
いうまでもなく、このような問題を放置することは、「景気後退下での住民の不安に対処するため、住民への生活支援を行う」という施策本来の目的を達することができないばかりか、人権擁護の観点からも看過できない問題である。
よって、当会は、定額給付金給付事務を行う県内各自治体に対し、当該制度導入の目的に鑑み、定額給付金の受給が最も必要な住民が給付金を受け取ることができるよう、柔軟な運用を図るなど早急に格段の配慮工夫をするよう求めるものであある。なお、報道によれば、宇都宮市、久留米市、沼津市等では、DV被害者が給付を受けられるよう独自の施策方針を打ち出す市町村も現れていることを付言する。

以上

2009年(平成21年)3月17日
埼玉弁護士会会長  海老原 夕美

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