2009.08.06

死刑執行に対する会長声明

本年7月28日,東京拘置所において1名,大阪拘置所において2名の合計3名の死刑確定者に対する死刑が執行された。いずれの死刑確定者も判決確定後約2年ないし3年の短期間での執行であった。森英介法務大臣のもとにおいては,昨年10月28日に2名,本年1月29日に4名の各死刑確定者に対する死刑執行に続くものであり,合計9名の死刑確定者が同大臣のもとで生命を奪われたことになる。
当会は,これまでにも死刑が執行されるたびに繰り返し政府に対し,死刑制度に関する十分な情報を広く国民に開示するとともに,これに基づく死刑制度の存廃についての国民的議論が尽くされるまでは死刑を執行しないよう強く求め続けてきたものであるが,これを全く顧みることなくなされた今回の死刑の執行については,これまで同様,強く非難するとともに厳重に抗議する。
しかも,今回の死刑の執行は,本年7月21日衆議院が解散され,国会も開かれておらず,森英介法務大臣の政治責任の追及も不可能なときに強行されたものであり,極めて不当であるとの誹りも免れない。

そもそも,死刑制度については,1989年12月に国連総会において「自由権規約第二議定書(いわゆる死刑廃止条約)」が採択され,1997年4月以降毎年,国連人権理事会(旧国連人権委員会)において「死刑廃止に関する決議」が行われ,その決議の中で,死刑存置国に対し,「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに,死刑の完全な廃止を視野に入れ,死刑執行の停止を考慮するよう求める。」との呼びかけがなされ続け,2007年12月及び2008年12月には,それぞれ国連総会において「すべての死刑存置国に対する死刑執行停止を求める決議」が圧倒的多数で採択されている。このように,個人の生命を奪う究極の人権侵害を制度化した死刑制度の廃止ないし停止は国際的な潮流となっており,かかる国際人権状況のもと,死刑廃止国は着実に増加し,1990年には死刑存置国96か国に対して死刑廃止国(法律上・事実上)は80か国に過ぎなかったところ,2009年6月には,死刑存置国58か国に対して死刑廃止国(法律上・事実上)は139か国となっている(Amnesty Internationalの調査)。

それにもかかわらず,死刑制度を存置している日本に対しては,1993年11月及び1998年11月に国際人権(自由権)規約委員会より「死刑廃止に向けての措置を取ること及び死刑確定者の処遇を改善すること」の勧告がなされ,2007年5月に国連拷問禁止委員会より日本政府報告書に対する最終見解として,「死刑執行を速やかに停止すべきこと」等の勧告がなされ,2008年5月に国連人権理事会より第2回普遍的定期的審査において死刑執行の継続に対する懸念が多数表明されたうえ「死刑の執行停止」の勧告がなされた。そして,2008年10月には,国連人権(自由権)規約委員会より日本の人権状況に関する第5回審査の総括所見として「世論調査の結果にかかわりなく死刑廃止を前向きに検討し,死刑廃止が望ましいことを国民に伝えるべきこと」の勧告がなされている。

このような度重なる国連及び国際機関の決議・勧告・要請を全く顧みようともしない死刑執行の継続は,日本国憲法において「国際協調主義」(第98条2項)を宣言しつつも自ら批准した人権諸条約を尊重する姿勢に乏しいことや基本的人権を保障する意識の極めて低いことを国際社会に強く印象付けるものであり,憲法の精神にも悖るうえ我が国の国際的評価を低下せしめるものと言わなければならない。

今回の死刑執行の報を受け,当会は,改めて政府に対し,死刑制度が個人の生命を奪う究極の人権侵害を制度化したものであることを厳粛に受け止めるとともに,これ以上の死刑の執行は絶対に行うことなく,速やかに死刑制度に関する十分な情報を広く国民に開示のうえ死刑制度の存廃についての国民的議論を尽くすよう強く求める。

以上

2009年(平成21年)8月6日
埼玉弁護士会会長  小出 重義

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