2010.07.13

憲法改正手続法の廃止を含めた再検討を求める会長声明

  1. 2007(平成19)年5月18日に公布された「日本国憲法の改正手続に関する法律」(以下「憲法改正手続法」という)が、本年5月18日に施行された。
    しかし、この憲法改正手続法には、1.最低投票率の定めがないため、例えば、投票率が40%程度の場合、国民の20%台の賛成で憲法改正がなされ得ること、2.国会での発議から国民投票までの期間が60日以後180日以内とされているため、国民的議論のための期間としては短かすぎること、3.公務員・教育者の国民投票運動に関して広範な制限を定めるものとなっており、こうした規制が意見表明に対して重大な萎縮効果をもたらすことになること、4.テレビ、ラジオなどの有料広告に対する適切な規制が講じられておらず、マスメディアが資金力のある勢力に独占されて公平な情報提供が損なわれかねないことなどの重大な問題点が多数残されたままとなっている。
  2. もともと、この法律の成立にあたって、前項の重大な諸問題の改善のために、最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること、テレビ・ラジオの有料広告規制について公平性を確保するために検討を加えること、公務員・教育者について禁止される行為と許容される行為を明確化することなどを含む3項目の附則や18項目の附帯決議が付されていた。
    それにもかかわらず、国会は、この3年余りの間、これら附則や附帯決議により法整備や再検討が求められていた事項についてすら全く検討してこなかったのである。
  3. そもそも、近代立憲主義は、個人の権利・自由を保障するため国家権力を制限するところに本質があり、そのため、憲法の成典化(人権条項や最高法規性の明定など)とともにその改正につき通常の法律よりも厳格な手続によらなければ改正できないという硬性化を求めてきた。
    この近代立憲主義の要請に沿い、日本国憲法は、人権保障の体系と硬性化を定めており、本来、このような日本国憲法の改正手続を定める法制度においては、人権主体である市民・国民の意思が適正に反映されるべく、国民投票の際には、広く市民・国民に改正の是非についての情報が十分に提供され、広範な国民的議論が保障されるということが不可欠のはずである。
    したがって、上述の附則や附帯決議の要請にすら全く応えないままの今般の施行は、憲法の最高法規性や硬性憲法の趣旨からして到底許されるはずがない。直ちに、国会の責任において、問題点の是正が図られるべきである。
  4. よって、当会は、国会に対し、憲法改正手続法の抱える問題点の是正と、是正がなされない場合は、廃止の方向での検討を求めるものである。

以上

2010年(平成22年)7月13日
埼玉弁護士会会長  加村 啓二

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