2010.08.11

死刑執行に対する会長声明

本年7月28日,東京拘置支所において2名の死刑確定者に対し死刑が執行された。今回の死刑執行は,民主党政権下における初めての死刑執行である。
死刑執行命令書に署名・押印した千葉景子法務大臣は,法務大臣に就任する以前,「死刑廃止を推進する議員連盟」に所属しており,法務大臣就任後においても死刑について慎重に対応する旨発言していただけに,今回の死刑執行には驚きを禁じ得ない。
当会は,これまで何度となく,政府に対し,死刑制度に関する十分な情報を広く国民に開示するとともに,これに基づく死刑制度の存廃についての国民的議論が尽くされるまでは死刑を執行しないよう強く求め続けてきたのであり,今回の死刑執行についても,改めて,厳重に抗議する。
1989年の死刑廃止条約採択後,今日においては死刑制度の廃止は国際的な潮流であり,現に,死刑制度廃止国(事実上の廃止を含む。)は,1990年当時が80か国に過ぎなかったのに対し,2009年6月の時点では139か国に及んでいるのである。 
また,死刑制度廃止という国際的な潮流に逆行するかのような政府に対しては,これまで,1993年及び98年の二度にわたり国連規約人権委員会から死刑廃止に向けての措置を取るべき旨の勧告がなされ,また,2007年には国連拷問禁止委員会より死刑執行を速やかに停止すべき旨の勧告もなされている。さらには,2008年5月に国連人権理事会の第2回普遍的定期審査の場で死刑執行の継続に対する懸念が多数表明されたうえ,改めて死刑執行停止の勧告がなされるとともに,同年10月には国連規約人権委員会より,日本の人権状況に関する第5回定期審査の総括所見において,「世論調査の結果にかかわりなく死刑廃止を前向きに検討し,死刑廃止が望ましいことを国民に伝えるべきこと」の勧告が改めてなされているのである。
このように国連諸機関から度重なる勧告や批判を受けながら,政府は,なおも,今回のように死刑執行を継続しているのであるが,このような姿勢は到底国際社会の理解を得られるものではなく,憲法が宣言する「国際協調主義」(憲法98条2項)の精神に悖るものでもある。
ところで,千葉法務大臣は,今回の死刑執行を命じる一方で,死刑制度の存廃を議論する勉強会を設け,死刑の刑場を報道機関に公開する方針を示している。しかし,死刑執行が根源的人権である個人の生命に対する権利を国家が剥奪する究極の人権侵害であることに鑑みれば,死刑の執行を継続しながら死刑制度の存廃について議論するというのではなく,死刑の執行を停止した上でこそなされるべきである。
以上から,当会は,改めて政府に対し,国連規約人権委員会等の諸勧告に従い,死刑制度という個人の生命を国家が強制的に奪う究極の人権問題について,世論調査によりその制度存廃を決するのではなく,人権保障の観点から死刑制度廃止こそが望ましいことを市民・国民に周知すべきであり,少なくとも,その間においては,これ以上の死刑執行は絶対に行うことのないよう強く求めるものである。

以上

2010年(平成22年)8月11日
埼玉弁護士会会長  加村 啓二

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