2010.09.03

全面的な国選付添人制度の実現を求める会長声明

  1. 弁護士付添人は,少年審判において,非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう,少年の立場から手続に関与し,家庭や学校・職場等少年を取りまく環境の調整を行い,少年の立ち直りを支援する活動を行っている。少年たちの中には,家庭で虐待を受け,あるいは,学校で疎外されるなど,どこにも居場所がなく,信頼できる大人に出会えないまま,非行に至っているものも少なくない。少年審判において,そのような少年を受容・理解した上で,少年に対して法的・社会的な援助をし,少年の成長・発達を支援する弁護士付添人の存在は,少年の更生にとって極めて重要である。
    しかし,非行を犯したとして家庭裁判所の審判に付された少年は,2008年の統計によれば,年間54,054であり,そのうち観護措置決定により少年鑑別所に収容された少年は11,519人に上るのに対し,弁護士である付添人が選任されたのは4,604人に過ぎない。これは,観護措置決定を受けた少年の約40%に過ぎず,成人の刑事手続において被告人の約98%に弁護人が付されていることと対比すると,極めて不十分といわざるを得ない。
  2. このように弁護士付添人の選任率が低いのは,従来,国選付添人制度が存在せず,2007年11月に導入された国選付添人制度の対象事件も,重大事件に限定され,しかも,家庭裁判所が必要と認めた場合に裁量で付すことができる制度に止まっているからに他ならない。
    しかも,昨年5月21日以降,被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたことにより,被疑者段階の少年に国選弁護人が選任されながら,家庭裁判所に送致後は国選付添人に選任されないという事態が生じている。このような事態が生じるのは,国選付添人制度の対象が一定の重大事件に限定されているため,被疑者国選制度の対象となる少年の事件のほとんどが国選付添人制度の対象とならず,家庭裁判所送致後に国費によって付添人を依頼することができないからである。
    当会では,2004年から一定の要件を充たす少年に対して無料で弁護士を派遣する当番付添人制度を実施してきたが,現在,当番付添人制度の派遣対象事件を,観護措置決定を受けて少年鑑別所に収容された少年全件に拡大すべく,さいたま家庭裁判所及びさいたま少年鑑別所と協議を行っているところである。当番付添人制度が整備されれば,少年が弁護士に相談する機会としては,一応の確保はできることになる。しかし,問題は,少年が弁護士を付添人として依頼するための費用の財源である。
  3. これまで日本弁護士連合会は,全ての会員から特別会費を徴収して少年・刑事財政基金を設置し,これを財源として弁護士費用を援助する少年保護事件付添援助制度を拡充してきた。しかし,被疑者国選弁護制度の対象が拡大し少年付添人援助の利用数が増加することによって,会員からの特別会費で維持されている少年保護事件付添援助制度の財政も危機的な状況に陥っている。
    そもそも,こうした付添人制度の財政的な裏付けは,本来,国費によるべきものである。自らの力だけで成長発達することのできない子どもは,その成長に必要な資源を大人に求めるという権利を有する。その成長発達権は,社会制度を構築する大人が本来保障すべきであり,国は子どもの成長発達のために必要な援助を行うべきである。非行少年は,成長発達していくための大人からの援助が十分に受けられなかったために非行を犯したという一面がある。そのため,非行を犯してしまった少年に対して法的・社会的な援助をし,少年の成長発達を支援する弁護士付添人の費用も,国が行うべき援助の一環として,国費により支出されるべきである。
    経済的理由から付添人を選任することが困難な少年に対して,付添人を依頼する費用を弁護士からの特別会費の徴収による基金により対応するというのは,国費による国選付添人制度ができるまでの暫定的な措置であるべきである。
  4. 子どもの権利条約第37条(d)は,「自由を奪われた全ての児童は,弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」していることを規定している。そして,自由を奪われているのは,被疑者段階のみならず,家庭裁判所に送致され観護措置決定を受けた場合も同様であるから,同条約を批准している我国は,家庭裁判所送致後も,自由を奪われた少年が弁護士付添人の援助を受けられるような制度を構築する責務がある。
  5. 政府においては,速やかに,国選付添人制度の対象事件を観護措置決定を受け少年鑑別所に収容された少年の事件全件にまで拡大する少年法改正を行うべきである。

以上

2010年(平成22年)9月3日
埼玉弁護士会会長  加村 啓二

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