2010.12.14

提携リース契約を規制する法律の制定を求める意見書

意見の趣旨

第1 提携リース契約において,極めて不適切・不合理な内容の契約により多数の被害が生じている現状に鑑みて,これを適切に規制する下記内容の立法措置を至急行うことを求める。

  1. リース会社とサプライヤーとの一体的取扱い
    サプライヤーが行った説明,付随役務等に関する法的効果・責任は,リース契約にも及ぶことを明示的に規律すること
  2. リース物件(リース契約の対象物件)の市価と乖離したリース料総額設定の禁止
    リース会社は,リース物件又は同種同程度物件の市場価格の調査義務を負い,これを著しく超えるリース料総額になるリース契約の締結を禁止し,違反した場合,当該リース契約を取り消すことができるとすること
  3. リース物件の限定・残リース料上乗せリースの禁止
    リース物件は,動産およびソフトウェアに限られるものとし,既存リース契約解約に伴う残リース料の上乗せや役務をリース物件とすることはできないことを明示するとともに,実質的にリース物件に役務提供を含める脱法的な扱いも禁止することを明示し,違反した場合には,リース契約を取り消すことができるとすること
  4. リース料の適正化・リース料率の規制
    リース料率の適正な制限利率を設けること
  5. 適切な契約内容の説明義務・書面交付義務
    リース会社及びサプライヤーは,リース契約の内容についてのリース会社の概要書面及び契約書面作成交付義務を負い,その内容は,動産及びソフトウェアの名称及びその価格,当該動産等に附帯する損害保険費用がある場合はその内容及び価格,当該動産等の設置・設定のための費用がある場合はその内容及びその価格,リース料率,中途解約の可否等,並びに,サプライヤーが負担するメンテナンス,その他付随する役務とすること
  6. クーリング・オフ
    営業としてもしくは営業のために取引した場合以外には,ユーザーは,第5項が定める契約書面を受領した後相当期間はリース契約のクーリング・オフができるものすること
  7. 不招請勧誘禁止・支払能力調査義務・過量販売の禁止
    リース契約についての不招請勧誘を禁止すること
    リース会社は,ユーザーの支払能力調査義務を負い,その額を超える契約の締結や過量販売を禁止すること
  8. 厳格な行政ルールの導入
    提携リースについては,販売信用に準ずるものとして,割賦販売に準じた規律を設け,経済産業省等への届出・登録義務を課した上で,報告徴求,立入検査,業務改善命令等の行政ルールを導入すること

第2 併せて,法制審議会における民法(債権法)改正の検討作業において,提携リース契約被害について考慮がされないままに,ファイナンスリース契約が典型契約として規定されることのないよう,十分慎重に議論を行うことを求める。

意見の理由

第1 提携リースとその被害

提携リースとは,販売店(以下「サプライヤー」という)とリース会社との間に提携関係があるため,サプライヤーがファイナンス・リース契約締結の交渉・申込手続を代行するリース契約のことである(本意見書においては,とくにフルペイアウト方式のものをいう。)。
本来,リースとは,企業(ユーザー)が,その設備投資のために自ら主体的になって,サプライヤー,リース会社と折衝を行い,リース料率等の契約条件を決めるという,いわゆるファイナンスリースを指していた。
しかしながら,近年被害が急増している提携リースは,上記のファイナンスリースとは全く異なり,サプライヤーとリース会社とが業務提携関係を構築し,リース会社は予めリース料率等を定型的に決定した上で,ユーザーとのリース契約締結業務等については,サプライヤーにそのほとんどを委託していることから,ユーザーがリースという仕組みを十分に理解できないおそれが生じやすいことに加え,リース会社が顧客獲得や収益面についてサプライヤーに大きく依存していることが大きな特徴である。
そのため,この仕組みを利用して,リース会社と提携関係のあるサプライヤーの販売員がユーザーを訪問して, 詐欺文言による勧誘を行い,これを信じたユーザーが,その物品価格を遙かに上回る高額な価格設定でリース契約を締結させられる事例が多発している。しかも,その被害の多くは,リース契約の法的意味,リース物件の市場価格などを熟知していない小規模零細事業者が狙われている。
これについて後日ユーザーがリース会社に対して解約を申し入れても,リース会社は,「サプライヤーの勧誘行為はリース会社には無関係である。」「リース契約上中途解約が認められない。」「事業者には特定商取引法が適用されずクーリング・オフは認められない。」といったことを理由に一切解約に応じようとしないため,被害がより深刻化している。
また,近年,100万円を超えるホームページ作成という役務提供の対価を2万円程度で市販されているソフトと機能的に変わらないソフトウェア等のリース契約を装って契約させるなどの新たな被害も発生している。埼玉県内においても,平成18年から20年にかけてサプライヤーがアパートの大家に対して,「光ファイバー設備や警備設備が無料で導入できる」などと虚偽の説明を行い,約100名もの大家に対してリース等の契約を締結させたという大規模被害が発生しており,現在も埼玉弁護団とリース会社との間で係争中である。

第2 立法の必要性

  1. 司法的救済の限界

    以上に指摘した被害に対応して,提携リースの場合にはリース会社についても販売業者等に該当することを明示した経済産業省の通達(平成17年12月6日)が出されるとともに, 社団法人リース事業協会に対して,電話機等リースの審査強化、提携販売事業者の総点検及び取引停止を含めた管理強化、苦情相談体制の整備等の取組を早急に講ずるように指導等がなされた。
    しかしながら,その被害がなおも拡大している。
    そして,リース業に対する法規制が不十分であるがために,ユーザーは,訴訟等において,提携リースにおけるリース会社とサプライヤーとの関係について,代理,表見代理ないしは締約補助者等の関係による信義則,消費者契約法による取消,特定商取引法によるクーリング・オフ,公序良俗違反による無効,安全配慮義務違反ないし不法行為に基づく損害賠償責任などの法的責任を追及しているが,これらの主張は,個々の裁判所の判断によっては司法的救済が受けられない場合もある。その最も大きな要因は,現実にはサプライヤーの営業によってリース会社が顧客を獲得し利益を得るという密接な依存関係があるものの,ユーザーがリース会社とサプライヤー間のかかる内部関係を把握するには限界があるということや,クーリング・オフの主張について事業の規模,リース物件の使用状況及びリース物件の必要性等,ユーザーが過大 な主張立証責任を負担させられていることにある。
    したがって,かかるユーザーとリース会社との間の主張立証責任の不均衡を是正し,もって,上記の被害を防止するためには,新たな法律をもって明確に具体的な規制をする必要がある。

  2. 民法(債権法)改正との関係

    また,現在,法制審議会において民法(債権法)改正に向けた議論が行われ,その中で新たにリース契約を典型契約に組み込む議論がなされているが,学者グループが作成した「債権法改正の基本方針」には,リース契約の基本型のみが記載されているだけで,上記のようなリース契約の病理現象については何ら考慮されておらず,立法としては極めて不十分であるばかりか,リース契約にいわばお墨付きを与え,提携リース被害を固定化しかねないおそれすらあるため,仮にリース契約を立法によって規律するのであれば,少なくとも,本意見書で述べるような,提携リース契約による被害実態について十分に慎重な議論をし,これを踏まえた規制がなされなければならない。

  3. 具体的必要性

    提携リースは,前記のごとく,サプライヤーとリース会社に提携関係による密接性あり,本来的なリースとは,その契約締結経緯,三者の関係が大きく異なっているものであり,その独自の規制の必要性が強い。
    むしろ,提携リースは,サプライヤーとリース会社に密接な依存関係があり,ユーザーへの与信がなされる点において,個別信用購入あっせん(個別クレジット)契約に類似している。
    この点,個別クレジット契約であれば,割賦販売法において,クレジット会社は,登録義務(割賦販売法35条の3の23~同3の35等)があるとともに,加盟店(販売店)に対する不適正与信防止義務(同法35条の3の7),業務適正化義務(同法35条の3の20)による管理監督責任,並びに,過剰与信防止義務(同法35条の3の3~同3の4)が課せられている。そして,クレジット会社に対する書面交付義務(同法35条の3の9),クーリングオフ(同法35条の3の10~同3の11)が認められ,販売店に問題のある行為があれば,抗弁の接続(同法30条の4)のみならず,不実の告知・過量販売などの場合には,既払い金の返還義務(同法35条の3の12~同3の16)までが認められているところである。
    これに対して,提携リースには,あまりに法規制がなされてない。
    さらに,サプライヤーがリース契約締結において,リース会社の代行をしている提携リースにおいては,その密接依存関係からして,リース会社に,サプライヤーの行為についての責任を帰属させるだけの法律的・実質的関係が存在しているものである。 個別クレジット契約にも適用されている媒介者の法理(消費者契約法5条)は,必ずしも創設的な規定ではなく,代理,履行補助者の法理に派生するものであることからも妥当する。
    そして,リース会社は,一般に,相応の規模を有する大企業であり,リース物件の市場価格の調査は容易であり,かつ,リース契約についての苦情が多発していることを熟知している。また、リース会社はサプライヤーと密接な関係にあり、サプライヤーを指示・監督できる立場にある。

  4. 結び

    以上のような被害実態,法制度に基づけば,リース会社とサプライヤーの一体的取扱いをすることを法的に明確にし,リース物件の価格,上乗せリースの禁止,リース料率などのリース契約の内容の適正化を図り,そもそも,不当な勧誘を防止するため,不招請勧誘を禁止すべきである。
    さらに,不適正なリース契約からの救済手段として,違反行為に対する取消権,書面交付義務とクーリングオフ制度の導入をすべきである。
    そして,リース会社による審査においても,支払能力の調査義務,過量な契約を防止する義務を課すべきものである。
    また,リース業については,特段何らの登録が必要とされておらず,前記のとおりリースによる被害は拡大しており,リース事業協会の自浄能力もないことからして,これら規制を課すとともに,リース業を経済産業省ないし消費者庁等への登録制とし,立入検査,改善命令等の行政監督権限に服させるべきである。
    したがって,提携リースに対し,前記第1記載の規制する立法措置を求めるとともに,前記第2記載のとおり,民法改正において慎重な議論を行うことを求めるものである。

以上

2010(平成22)年12月14日
埼玉弁護士会会長  加村 啓二

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