2011.04.13

全面的国選付添人制度の実現を求める総会決議

第1 決議の趣旨

当会は,国に対し,少年法を速やかに改正し,国選付添人制度対象事件を,少なくとも観護措置決定を受け少年鑑別所に送致された少年の事件全件に拡大することを強く求める。

第2 決議の理由

  1. 弁護士付添人は,少年審判において,非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう,少年の立場から手続に関与し,家庭や学校・職場等少年を取りまく環境の調整を行い,少年の立ち直りを支援する活動を行っている。少年たちの中には,家庭で虐待を受け,あるいは,学校で疎外されるなど,どこにも居場所がなく,信頼できる大人に出会えないまま,非行に至っているものも少なくない。少年審判において,そのような少年を受容・理解した上で,少年に対して法的・社会的な援助をし,少年の成長・発達を支援する弁護士付添人の存在は,少年の更生にとって極めて重要である。
    しかし,非行を犯したとして家庭裁判所の審判に付された少年は,2009年度の司法統計によれば,年間54,254人であり,そのうち観護措置決定により少年鑑別所に収容された少年は11,241人に上るのに対し,弁護士である付添人が選任されたのは6,139人に過ぎない。これは,観護措置決定を受けた少年の55%弱に過ぎず,成人の刑事手続において被告人の98%以上に弁護人が付されていることと比べて,極めて不十分といわざるを得ない。
  2. このように弁護士付添人の選任率が低いのは,従来,国選付添人制度が存在せず,2007年11月に導入された国選付添人制度の対象事件も,重大事件に限定され,しかも,家庭裁判所が必要と認めた場合に裁量で付すことができる制度に止まっているからに他ならない。
    しかも,2009年5月21日以降,被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたことにより,被疑者段階の少年に国選弁護人が選任されながら,家庭裁判所に送致後は国選付添人に選任されないという事態が生じている。このような事態が生じるのは,国選付添人制度の対象が一定の重大事件に限定されているため,被疑者国選制度の対象となる少年の事件のほとんどが国選付添人制度の対象とならず,家庭裁判所送致後に国費によって付添人を依頼することができないからである。
  3. 当会では,2004年から一定の要件を充たす少年に対して無料で弁護士を派遣する当番付添人制度を実施してきたが,2010年11月15日以降,当番付添人制度の派遣対象事件を,さいたま家庭裁判所で観護措置決定を受けて少年鑑別所に収容された少年全件に拡大した。さいたま家庭裁判所川越支部及び熊谷支部で観護措置決定を受けた少年に対しても,当番付添人制度の対象拡大を実施すべく検討を進めているところである。当番付添人制度の整備ができれば,少年が弁護士に相談する機会としては,一応の確保はできることにはなるが,それでも次のような問題がある。
  4. 現行制度では,被疑者国選弁護人を担当していた弁護士が,当然に付添人に選任されるわけではなく,捜査段階で弁護士との信頼関係を築けていた少年に別の弁護士がつくことになり,少年が事案の内容等を一から説明をし直し,ゼロから信頼関係を築かなければならない事態もあり得る。また付添人となろうとする被疑者国選弁護人にとっても,少年や保護者に別の弁護人選任の余地(もしくは付添人を選任しない余地)があるため、不安定な立場に立たされる。捜査段階で被疑者国選弁護人に選任されていた弁護士が,成人の刑事裁判での国選弁護人と同じように,自動的に国選付添人に選任されるような制度であれば,このような問題は避けることができる。
  5. これまで日本弁護士連合会は,全ての会員から特別会費を徴収して少年・刑事財政基金を設置し,これを財源として弁護士費用を援助する少年保護事件付添援助制度を拡充してきた。被疑者国選弁護制度の対象が拡大し,これに伴う少年付添人援助の利用数の増加に伴う財源の不足に対しては,特別会費の値上げを行って対応している。日本弁護士連合会が,特別会費の値上げを行ってまで少年保護事件付添人援助制度を拡充してきたのは,弁護士付添人の存在が,少年の成長発達のために重要だからである。 
  6. しかし,そもそも,こうした付添人制度の財政的な裏付けは,本来,国費によるべきものである。自らの力だけで成長発達することのできない子どもは,その成長に必要な資源を大人に求めるという権利を有する。その成長発達権は,社会制度を構築する大人が本来保障すべきであり,国は子どもの成長発達のために必要な援助を行うべきである。非行少年は,成長発達していくための大人からの援助が十分に受けられなかったために非行を犯したという一面がある。そのため,非行を犯してしまった少年に対して法的・社会的な援助をし,少年の成長発達を支援する弁護士付添人の費用も,国が行うべき援助の一環として,国費により支出されるべきである。経済的理由から付添人を選任することが困難な少年に対して,付添人を依頼する費用を弁護士からの特別会費の徴収による基金により対応するというのは,国費による国選付添人制度ができるまでの暫定的な措置であり,早急に,国費による国選付添人制度の対象拡大を行うべきである。
  7. 子どもの権利条約第37条(d)は,「自由を奪われた全ての児童は,弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」していることを規定している。そして,自由を奪われているのは,被疑者段階のみならず,家庭裁判所に送致され観護措置決定を受けた場合も同様であるから,同条約を批准している我国は,家庭裁判所送致後も,自由を奪われた少年が弁護士付添人の援助を受けられるような制度を構築する責務がある。
  8. よって当会は,国に対し,速やかに,国選付添人制度の対象事件を観護措置決定を受け少年鑑別所に収容された少年の事件全件にまで拡大する少年法改正を行うことを求め,決議の趣旨のとおり決議する。

以上

2011(平成23)年4月13日
埼玉弁護士会

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