2011.05.26

布川事件再審無罪判決に関する会長声明

  1. 本年5月24日,水戸地方裁判所土浦支部は,「布川事件」の再審事件判決公判において,櫻井昌司及び杉山卓男の両氏に対する強盗殺人の罪につき無罪を言い渡した。
    1967年8月発生の本件強盗殺人事件について,両氏は,犯行と結び付ける客観的証拠がないまま,目撃供述と両氏の「自白」に基づき起訴され,第一回公判以降一貫した無実主張にもかかわらず,1978年7月に最高裁で無期懲役刑が確定されたものである。その後,両氏は,1996年11月に仮釈放され,以降,再審請求を続けたところ,再審請求審に至って多くの新証拠が提出され,中でも,新たに開示された検察官手持ち証拠により,確定審で有罪認定の情況証拠とされた目撃供述の信用性や証拠価値に重大な疑義が呈され,また,両氏の「自白」が客観的証拠と合致せず信用性がないことなどが明らかにされ本無罪判決に至ったのである。
  2. このように,再審請求審で初めて開示された検察官保有証拠から両氏に対する有罪認定を改めるべきことを示すものが認められ,それらが本無罪判決の有力な根拠となったわけであるが,このことは,捜査機関が保有する証拠の全面開示を制度化することの重要性を改めて強く示すものである。
    また,確定審では両氏の自白過程の一部を録取した録音テープが自白の任意性肯定判断に寄与していたが,他方で,再審請求審になって提出された別の自白過程の一部を録取した録音テープに11箇所にもわたる編集痕が認定されるなどした結果,この新たな録音テープは,両氏の「自白の供述経過,ひいてはその信用性に疑問を提起する」と再審請求審において評価されるに至っている。これらのことは,やはり,取調べの一部を録音・録画することの重大な危険性とともに,その全過程の「可視化」を制度化する必要性も併せ強く示すものである。
  3. 両氏は,事件発生後程ない1967年10月に逮捕され,その後実に29年余りもの長きにわたり獄中で自由を奪われたうえ,さらにその後今日まで,雪冤のために筆舌に尽くし難い労苦を続けてこられた。当会は,検察官に対し,再審請求から本無罪判決に至る経緯を真摯に受け止め,控訴することの無きよう強く求めるものである。
    また,最高検察庁,警察庁及び最高裁判所に対し,直ちに,本件冤罪が生じるに至った根本原因の究明とその結果公表とともに,両氏に対する謝罪等適切な対応を講ずるよう強く求めるものである。
    あわせて,政府・国会に対し,改めて,無罪の場合における検察官控訴制度の見直しとともに,捜査機関保有証拠の全面開示制度と捜査側における「取調べ全過程の可視化」制度の立法を強く求める次第である。

以上

2011(平成23)年5月26日
埼玉弁護士会会長  松本 輝夫

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