2012.03.30

バーチャルオフィス事業等に関する意見書

2012年3月30日  埼玉弁護士会

第1 意見の趣旨

  1. バーチャルオフィスを業とする事業者(以下、「バーチャルオフィス事業者」という。)の提供するバーチャルオフィスが、未公開株商法等の利殖詐欺の温床となっている事実に鑑み、バーチャルオフィスを利用した犯罪を抑止するため、バーチャルオフィス事業者に対する以下のような法的規制を設けるべきである。
    1. バーチャルオフィス事業者を登録制にすること。
    2. バーチャルオフィス事業者が、バーチャルオフィスとして提供する営業所や事務所
      (以下、「営業所等」という。)を法人等の登記簿上の本店所在地や支店の所在地として提供することを禁止すること。
    3. バーチャルオフィス事業者に対して、バーチャルオフィスとして提供する営業所等の所在地を監督官庁等のホームページで公告する義務を定めること。
    4. バーチャルオフィス事業者が、顧客に対する裁判所からの訴状の特別送達を受領しない等の訴訟係属を妨げるような郵便物の取り扱いをすることを禁止すること。
    5. バーチャルオフィス事業者が、上記(1)から(4)の規制に違反した場合には過料等の制裁を課すこと。
  2. バーチャルオフィス事業者や電話転送業者がその電話転送役務を提供する相手方は、エンドユーザーでなくてはならず、バーチャルオフィス事業者や電話転送業者が他のバーチャルオフィス事業者や電話転送業者に対して電話転送役務を提供することを原則禁止するべきである。

第2 意見の理由

  1. 背景

    ここ数年、商業登記、法人登記を悪用して口座を開設した業者による未公開株商法や社債詐欺商法等の利殖詐欺が横行している。これらの業者の中には、バーチャルオフィスとして提供された営業所等を本店所在地や外的な営業所等とするものが多数存在する。
    バーチャルオフィスとは、実際に入居することなく住所や電話番号等をバーチャルオフィス事業者から借り受け、届いた郵便物は転送し、かかってきた電話にはバーチャルオフィス事業者のオペレーターが応対するようなサービスをいう。
    平成23年9月1日付け毎日新聞は、警察庁が平成23年1月から6月にかけて、利殖勧誘詐欺に利用された疑いがあるとして金融機関に凍結を依頼した口座を分析したところ、所在地がバーチャルオフィスだった法人が少なくとも11社あったと報道している。
    平成23年10月31日付け日本経済新聞のニュースでは、利殖詐欺の温床として、バーチャルオフィスに言及がなされている。
    平成23年11月3日付けの産経ニュースの記事には、「利殖勧誘事件の舞台装置は都心のバーチャルオフィスと法人名義の口座だ」との警察幹部の言葉に触れた上で、「口座凍結を要請した法人名義の口座1279件について警察庁が分析したところ、1つの法人で複数の口座を開設していたケースもあり、法人数は616社に上った。そのうち少なくとも130社(全体の約21%)が金融機関に届け出ていた事務所の所在地が、都心のバーチャルオフィスであったことが判明した。」と掲載されている。
    利殖詐欺業者は、商業登記、法人登記が存在することから、口座開設にあたり、金融機関が行う本人確認を通過することができ、その結果取得した預金口座を使って詐欺行為に及んでいる。
    その一方で、これらの利殖詐欺業者が当該営業所等に入居せず、実態を有していないため、詐欺被害が発覚したとしても被害救済ができないケースが散見される。それどころか、詐欺被害が発覚するや否やバーチャルオフィスに係る契約を解約してしまい、訴訟係属することすら満足にできないことも多い。
    また、バーチャルオフィス事業者の中には、当該営業所等をバーチャルオフィスとして提供しているにも関わらず、それがホームページや外観からわからないようにしている業者や普通郵便は受領するものの、裁判所の特別送達や内容証明郵便に関しては受領や転送しないとする事業者がおり、個別のサービスに関する問題点も数多く存在する。

  2. バーチャルオフィス事業者に対する法規制
    1. バーチャルオフィスの現状
      バーチャルオフィスについては郵便等の連絡先とすることで,郵便物の管理・整理ができること、会議室等のスペースのレンタルといった意味で利便性を有しているものの、都内の一等地の住所地上に法人登記を取得させるなど利殖詐欺の手段及び責任回避の方法として用いられてしまっているという現状がある。
    2. 法規制の必要性
      現在、バーチャルオフィス事業者を直接規制する法律は制定されておらず、現状では、電話受付代行業者や私書箱業者に対する犯罪収益移転防止法による本人確認義務の規制があるのみである。
      しかしながら、バーチャルオフィス事業者は、電話受付代行業者や私書箱業者と異なり、法人としての実態がないにもかかわらず、バーチャルオフィスとして提供された営業所等にあたかも法人が存在するかのような体裁をあたえるものであり、こうした体裁を与えない電話受付代行業者と私書箱業者とは異なる法規制が必要となるというべきである。
  3. 法規制の具体的内容
    1. バーチャルオフィス事業者を登録制にすること
      バーチャルオフィスは、実態がないにもかかわらず、提供した営業所等にあたかも法人としての実態が存在するかのような体裁を与えるもので、上記のとおり利殖詐欺をはじめとする消費者被害の温床となりうる。したがって、バーチャルオフィス事業に関する法規制を定めるとともに、登録制によって監督官庁の監督のもとにおくべきである。
      登録制による規制を図るため、過度の規制を防ぐという観点から、バーチャルオフィスの定義を明確化しておく必要がある。
      この点、バーチャルオフィスの定義を、顧客に対し、顧客が入居することなく営業所等を利用させる役務で、かつ、次の(ア)乃至(オ)いずれかを役務の内容に含むものとするべきである。
      • 当該顧客がバーチャルオフィス事業者の営業所等を郵便物を受け取る場所として用いること
      • バーチャルオフィス事業者の営業所等において当該顧客あての郵便物を受け取ってこれを当該顧客に引き渡すこと
      • バーチャルオフィス事業者の電話番号を当該顧客の連絡先の電話番号として使用させること
      • バーチャルオフィス事業者の電話番号を当該顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、当該顧客あての当該電話番号に係る電話を受けてその内容を当該顧客に連絡すること
      • バーチャルオフィス事業者の電話番号を当該顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、当該顧客宛ての若しくは当該顧客からの当該電話番号に係る電話を当該顧客が指定する電話番号に自動的に転送させること

      バーチャルオフィスの問題点の本質は、法人の実態が営業所等に存在しないにもかかわらず、それがあたかも存在するかのように仮装できる点にあるため、「顧客が入居することなく、営業所等を利用させる役務」をバーチャルオフィスの要件の一つと考えるべきである。
      また、バーチャルオフィスへの規制の潜脱を防ぐために、利用者が当該営業所等宛の郵便を受け取れること、利用者が営業所等への電話を受け取ることができることのいずれかがあれば足りると考えるべきである。

    2. バーチャルオフィスの営業所等を法人等の登記簿上の本店所在地や支店の所在地として提供することの禁止
      バーチャルオフィスとして提供される営業所等を登記簿上の所在地とする法人等を利用した利殖詐欺が横行していること、こうした利殖詐欺を行った業者の実態が判明せず、責任追及が困難になっていることから、バーチャルオフィスの営業所等を登記簿上の本店所在地や支店の所在地として提供することを禁止するべきである。そもそもとして、あたかも都会の一等地に住所を有するかのような外観を与え、実態と乖離した信用性を与えることも問題であるし、法人登記制度もいわば架空登記となるような事態を許容しているとも考えられない。
      したがって、バーチャルオフィス事業者が、バーチャルオフィスの営業所等を本店所在地や支店の所在地として提供することを禁止するべきである。
    3. 営業所等の所在地の公告
      バーチャルオフィスとして提供される営業所等の中には、実態はバーチャルオフィスとして提供されているにもかかわらず、ホームページ上も、外観上もそれがバーチャルオフィスであることが示されていないものがある。この場合には、バーチャルオフィスを利用している事業者を見失い、責任追及ができなくなるおそれがある。
      監督官庁のホームページ等でバーチャルオフィスとして提供される営業所等の所在地を公開することによって当該事業者がバーチャルオフィスを利用しているかどうかを容易に把握することができるようになる。
      また、金融機関においても公告を利用することによって、より厳重な本人確認を行うことができる。
    4. 裁判所の特別送達を受領しない等の郵便物の取り扱いの禁止
      バーチャルオフィス事業者の中には、利用者との契約によって普通郵便は転送するが、裁判所による特別送達は受け取らない又は転送しないという事業者が存在する。
      この場合には、訴状を特別送達でバーチャルオフィスとして利用されている営業所等に送達しているにもかかわらず、訴状が送達されないという事態が生じる。バーチャルオフィスと顧客との契約により、郵便物の転送に制限を加えることは訴状の送達を著しく困難にし、被害者の被害回復を阻害するものである。こうした不当な郵便の転送契約に関しても規制を加えるべきである。
  4. 電話転送業者やバーチャルオフィス同士の電話転送役務の原則禁止

    昨今、利殖詐欺業者による詐欺で利用された電話番号について弁護士法23条の2に基づく照会を行った際に、電話転送業者やバーチャルオフィス事業者同士で電話転送契約を締結している事例が数多くあり、エンドユーザーまでに辿り付くまでに多数の電話転送業者が介在している事例も珍しくない。この場合に、弁護士は利殖詐欺業者の所在等を長い時間をかけて追跡せざるをえず、その間に、利殖詐欺業者が所在をくらましてしまい、被害回復が困難となるおそれがある。このような電話転送業者やバーチャルオフィス事業者同士での電話転送にかかる契約は、責任追及を妨害し、利殖詐欺の被害が増大する一つの要因となっている。
    そもそも、バーチャルオフィス事業者や電話転送業者同士で電話転送契約を締結することについて、責任追及を妨害すること以外の合理的な理由を見出すことはできない。
    したがって、このような契約を原則禁止することによって、利殖詐欺被害の増加防止を図るべきである。

以上

戻る