2012.04.11

死刑執行に対する会長声明

本年3月29日,東京・広島・福岡の各拘置所において合わせて3人の死刑確定者に対する死刑が執行された。当会は,これまで何度となく,日本政府(法務省)に対し,死刑制度の実態等に関する十分な情報を広く開示するとともに,これに基づいた制度存廃についての国民的(全社会的)議論が尽くされるまでは死刑を執行しないよう強く求め続けてきたもので,今回の3人もの死刑執行につき改めて厳重に抗議する。
1989年に「死刑廃止条約」が国連で採択された後,死刑制度の廃止こそが国際的動向となっており,実際,1990年当時には死刑制度廃止国(事実上の廃止を含む)は80か国であったが,近時,その数は140か国にまで及んでいるのである。
また,この間,国連の人権関係諸委員会は,日本政府に対し,死刑廃止に向けての措置を採るべきことや速やかに死刑執行を停止すべき旨を勧告してきている。近時においては,2008年5月,国連人権理事会から死刑執行の継続に対する懸念が表明されたうえ,改めて死刑執行停止の勧告がなされているところである。
この度の執行について,それを命じた小川敏夫法務大臣は,法務省内での記者会見において(世論調査で)「国民の大半が死刑を支持し,とりわけ国民の声を反映させる裁判員裁判でも死刑が選択されている」ことが「重要な要素」となった旨述べた。しかしこれでは,2008年10月に国連(自由権)規約委員会の日本の人権状況に関する第5回審査総括所見における「世論調査の結果にかかわりなく死刑廃止を前向きに検討し,死刑廃止が望ましいことを国民に伝えるべき」旨の勧告に対する政府としての全くの無理解を表明しているに等しい。
また,同法相は死刑の存廃を議論するため法務省内で検討されていた有識者会議の設置計画を打ち切ったとの報道もなされているが,この間日弁連は,本年2月27日付けで同法相に対し「死刑制度の廃止についての全社会的議論を行うため(中略)法務省に有識者会議を設置する等の方策をとるべきである」旨を求めていたところでもあり非常に問題である。加えて,政府の死刑制度に関する情報開示は執行後に被執行者名を公表する程度にとどまり,死刑確定者の拘禁実態や執行の態様等に関する情報は殆ど開示されない現状にある。これでは,国民の知る権利に応えているとは到底いえないし,そもそも全社会的議論の前提を欠いている。
かように,国連人権諸機関や日弁連・当会などから幾度の批判・勧告を受けてもなお,日本政府は,死刑制度に関する情報開示も殆どせず,且つ全社会的議論も尽くすことのないまま死刑執行を継続しているのであり,このような日本政府の姿勢は極めて異常といえ,それはまさに日本国憲法の基本原理である人権尊重主義や憲法98条2項の「国際協調主義」の精神に悖るものとして強い非難にあたいする。
以上から,当会は,改めて日本政府(法務省)に対し,死刑制度が個人の生命を奪う究極の人権侵害を制度としたものであることを厳粛に受け止め,速やかに,死刑制度に関する国際的潮流や死刑執行の実態を含めた十分な情報を広く開示して制度存廃についての全社会的議論を尽くすことと,その間においてはこれ以上の死刑執行は絶対に行うことのないよう強く求める。

以上

2012年(平成24年)4月11日
埼玉弁護士会会長  田島 義久

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