2012.08.09

改正貸金業法の「再改正」に反対する会長声明

深刻化した多重債務問題に対処するために、2006年(平成18年)12月に、世論の後押しを受け、国会において全会一致で可決した改正貸金業法は、2010年(平成22年)6月18日に、完全施行されるに至り、今般2年が経過するに至った。
上限金利の引き下げ・総量規制を柱とする改正貸金業法及び官民を挙げた多重債務対策の拡充により、200万人超存在するといわれていた「借入件数5件以上」の債務者は、現在では約42万人に減少しており、多重債務者は確実に減少している。
ところが、昨今、金利規制・総量規制の緩和を求め、貸金業法を「再改正」する動きが与野党の国会議員の一部にみられる。「再改正」の根拠として、「中小零細企業が短期の借り入れができなくて経営に行き詰まっている。」とか「改正貸金業法のために貸付を受けられない者が増加し、ヤミ金融に流れている。」ことなどをあげている。
しかしながら、中小企業者の資金繰りの悪化の要因は、金融庁による全国の商工会議所へのアンケート調査では、販売不振や震災の影響などが大きな比重を占め、改正法の影響が極めて小さいことがわかっている。
また、ヤミ金融被害対策埼玉弁護団によれば、同弁護団への相談件数は、2003年(平成15年)の1982件(業者数8772件)をピークに激減し、現在は、2006年(平成18年)の改正当時の747件(業者数2950件)からも減少しており、2011年(平成23年)は412件(業者数1248件)とされる。一部で懸念されていたヤミ金融被害の増加という事実はなく、改正貸金業法は極めて順調に施行されていると評価できる。
そもそも、経済的に逼迫したり、資金繰りが苦しい者に高利で融資をしてもその者の生活や事業が破綻するだけで長期的に見れば救済されるわけではない。この事実の認識を共有した結果、改正貸金業法は成立したものであり、これに変更を加えるべき事実の変化や必要性は生じていない。
経済的に逼迫した市民や事業者の救済には、セーフティネットや低利融資制度の拡充こそが求められる。ヤミ金融被害は、より一層の徹底的な取り締まりによって防止すべきである。
以上のとおり、金利規制・総量規制を緩和する方向で貸金業法を「再改正」する必要はない。
当会は、改正貸金業法が完全施行されてから3年目を迎えるにあたり、改正貸金業法の成立及び完全施行を改めて評価するとともに、貸金業法の規制緩和の動きに強く反対する。同時に、当会は、今後も無料法律相談など多重債務対策に継続的に取り組むことを確認する。

以上

2012年(平成24年)8月9日
埼玉弁護士会会長  田島 義久

戻る