2012.08.09

「社会保障・税共通番号制度」創設に反対する会長声明

  1. 本年2月14日に提出された「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」(以下,「本法案」という)について,先月25日,参院社会保障と税の一体改革特別委員会で野田首相が本法案の審議促進を要請したと報じられている。
    本法案は,すべての国民と外国人住民に対して,社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号(マイナンバー)を付けて,これらの分野の個人データを,情報提供ネットワークシステムを通じて確実に名寄せ・統合(データマッチング)することを可能にする制度(いわゆる「社会保障・税共通番号制度」,以下「共通番号制度」という。)を創設しようとするものである。
  2. しかしながら,本法案には,憲法によって保障されるプライバシー権保護の観点から看過し得ない重大な問題がある。
    1. 本法案により創設を予定される共通番号制度により収集し,名寄せ,統合されることが想定される情報とは,個人の医療,介護,障がい,収入,年金など個人の生活のおよそ全般にわたるものであり,その内容には極めてセンシティブな情報も含まれる。しかも,この制度のもと,かような個人に関する種々の情報が名寄せ,統合される結果,集積された情報は,識別番号によって容易に検索することが可能な状態となる。そうすると,この制度創設により,政府が市民・国民の個人に関する情報を一元的に管理する体制が構築されることとなり,それは結局のところ,国民監視の道具として濫用される危険性を常に孕むものになるといわざるを得ない。
    2. また,集積された情報の漏洩が生じた場合,情報の一元管理によって個人に関する情報の広範な流出が生じる懸念が高まる。そうなった場合,高度に情報化された現代において,被害を受けた当該個人は,およそ回復困難な損害を被る事態となりかねない。
    3. さらに,識別番号は公開を前提とした番号とされ,民間でも利用されることになる。このため,共通番号制度と同種の制度を持つアメリカや韓国で現に生じているような,他人が共通番号を悪用するいわゆる「なりすまし」による深刻な被害を生じさせる懸念もある。
  3. これに対し,本法案ではプライバシー保護を図る方策を採るとするが,以下に述べるとおり不十分なものといわざるを得ない。
    1. 識別番号を含む個人情報(以下,「特定個人情報」という)の提供は,本法案に規定された場合に制限されるとする。しかし,それは,「刑事事件の捜査」や「その他政令で定める公益上の必要があるとき」などでも提供できるとする規定(本法案17条11号)であって,濫用の懸念を払拭できるようなものではない。
    2. また,個人情報の保護を目的とする第三者機関を設けるとされているが,その組織体制は委員6名と極めて脆弱である上,内閣総理大臣所管とされるもので独立性の点でも問題があり,その監視・監督の実効性については疑問である。加えて,前記本法案17条11号による特定個人情報の提供などは監督の対象にすらされていない(本法案48条)。
    3. さらに,今後予定されているとする「マイ・ポータル」と称するシステムにより,特定個人情報へのアクセスの記録を確認できるようにするというが,これでは個人情報にアクセスされたことを把握するだけであって,被害発生の事前防止策としては不十分であることが明らかである。
    4. 情報漏洩などの行為に対して罰則を設けたとしても,漏洩によって生じた重大な被害を回復することはできないのであるから,これをいかに強化しようと,プライバシー保護として十全でないことは言うまでもない。
  4. これまで述べたような共通番号制度が抱える問題点もさることながら,このような制度創設について,市民・国民の間で殆ど認識されていないのが現状である。加えて,そもそも,本制度がどのような範囲にまで及ぶものなのか,あるいは,その導入・維持のためにどの程度の費用を要するのかといった最も基本的な点すら明確にされていない。これでは,この制度に関する全社会的議論が尽くされたとは到底いえないのである。
    以上のとおりであるから,本法案をこのまま成立させることは,将来に重大な禍根を残すことになる。よって,当会は,本法案に強く反対するものである。

以上

2012年(平成24年)8月9日
埼玉弁護士会会長  田島 義久

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