2012.08.09

松伏町の更生保護施設等に関する条例制定に反対する会長声明

  1. 自由刑の執行を受けた人々の中には様々な理由から出所後の帰住先を自ら確保することができず、出所後の居住場所すらないという人も多い。
    こうした人々の社会復帰と再犯防止を支援するため、国から委託を受けた民間施設(更生保護施設、自立準備ホーム。以下、「更生保護施設等」という)が、出所後に帰住先が確保できないという場合に、一時的に居室を提供するとともに、社会復帰に向けた生活指導等を行っている。
    そもそも、ひとり一人の出所者の円滑な社会復帰を実現していくことは、出所者を含め多様な人々が共存する社会において、すべての市民・国民が等しく基本的人権を享受し、人間らしく生きることを可能とする社会を実現することにほかならない。そして、更生保護施設等は、出所者のうちでも特に社会復帰が困難な人々を支え、その再犯を防止する一翼を担うという重要な意義を有する。
  2. ところが、本年7月、松伏町は、「「(仮称)松伏町更生保護施設等の設置及び開所に伴う手続に関する条例」の素案について」を公表した(以下「本素案」という)。同町は、この素案に基づく条例案を本年9月の議会に提出し、同月中旬にも施行を予定している。
    本素案は、「当該施設に対する町民の不安を取り除き、町民が安心して暮らすことができる地域社会の実現」を目的に掲げ、松伏町内で更生保護施設等を設置しようとする者は予め、施設開設予定地の300メートル以内の住民及び不動産所有者(以下「住民等」という。)に対して説明会を開き、説明会終了後、書面によりすべての住民等の3分の2以上の同意を得ることを求めている。
  3. しかし、このように関係住民の「3分の2以上の同意」という極めて厳格な要件を課することは、結局のところ、当該自治体内で新たに更生保護施設等を開設することを事実上認めないことに等しい。これはまさに、上述した更生保護施設等の重要性を全く理解しないものといわねばならない。
    そもそも、行政が果たすべき役割は、本来、住民の抽象的且つ漠然とした「不安」を取り除くため、出所者の社会復帰・再犯防止を含めた更生保護の意義及びそのために更生保護施設等が果たす重要な役割について、住民に十分説明し周知徹底していくことのはずである。
    しかるに、本素案におけるように出所者を危険視して、当該地域社会から排除しその社会復帰の途を事実上狭めることは、ひとり一人の個人を「個人として尊重」することを核心的原理とした日本国憲法の人権尊重主義に悖る施策である。したがって、かかる施策は「地方自治の本旨」に適うものではないといわざるを得ない。
  4. よって、当会は、すべての出所者の社会復帰の途を決して狭めることなく一層促進すべきという見地から、松伏町に対し、「(仮称)松伏町更生保護施設等の設置及び開所に伴う手続に関する条例」を制定しないよう強く求める。

以上

2012年(平成24年)8月9日
埼玉弁護士会会長  田島 義久

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