1996.11.25

速記官による速記録制度維持拡充のための会長声明

  1. 裁判所速記官は、訴訟当事者や証人の供述を速記タイプにより逐語録にとどめる。これは速記録として公判調書や弁論調書の一部となる。私たち弁護士は、これまでこの速記録に高度の信頼を寄せてきた。
    ところが、この間外部委託の録音反訳方式による調書作成の実験を全国の数庁で行ってきた最高裁判所は、右速記官による速記録制度を廃止する意図のもとにこの反訳業務を外部業者に委託する制度に移行せんとしている。最高裁判所は右外部委託の録音反訳方式をとる理由として、速記官の人材確保及び速記タイプの製造継続が困難であるため、速記官による速記録制度を維持するのが困難であることを挙げる。しかし、最高裁判所は毎年多数の速記官試験受験者がいるにも拘らず定員まで採用していないこと、さらに速記タイプの製造元は今後も製造を継続する意向を明らかにしていることを考えると、最高裁判所が挙げる理由にはなんら説得力はない。
  2. 速記官による速記は、証人の身振り手振りなどの言葉によらない表現を記録することをはじめ、法廷に実際に立ち会ったものでなければできない正確かつ臨場的な記録が可能である。また、裁判官は速記官が作成する速記の内容については速記官の専門的職能に照らして変更を命ずることができないとされる結果、この速記録は裁判官の予断や心証からも独立し、訴訟記録の客観化という重要な機能をも有している。記録の客観化は上級審における下級審判決の再検討と、国民による裁判に対する監視にとり、不可欠のものである。
    速記官による速記録制度は、裁判の公正にとって、外部委託の録音反訳方式では代替し得ない役割を果たしているのである。
  3. もっとも、現行速記官による速記録制度に対しては、これに伴う速記官の職業病問題や速記符号の文章化の非効率の問題が指摘されている。しかし、これについては、速記官の増員や速記タイプを含む技術の改良努力等により解決が図られるべきであって、この故に速記官による速記録制度を廃止するというのは、本末転倒というべきである。
  4. 訴訟における逐語録の需要はますます高まっており、この需要に対しては速記官を増員して対処すべきである。公正な裁判を実現するためには、むしろ、証拠調手続における証人や当事者の供述にとどまらず、弁論、公判手続全般について速記録を作成することを目標にして、速記官による速記録制度をさらに充実すべきであると考える。
    このことが裁判の公正にとどまらず、裁判に対する訴訟当事者の信頼を醸成し、裁判の迅速に資することになることは多言を要しない。

よって、ここに当会は、外部委託の録音反訳方式に反対し、速記官による速記録制度の維持拡充のために、この声明を発するものである。

1996(平成8)年11月25日
埼玉弁護士会会長  木村 壮

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