2013.02.13

所沢市内の小中学校における除湿工事(冷房工事)中止に関する意見書

意見の趣旨

所沢市は,学校設置者として,「自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しい区域」内に所在する小中学校について,除湿工事(冷房工事)を速やかに行うべきである。

意見の理由

  1. 所沢市内には,防衛大臣により,「自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しい区域」に指定されている地域が存在する(防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律)。同区域に所在する小中学校は,防音校舎となっているが,設備の老朽化に伴い,暖房設備の改修(温度保持工事(暖房工事))に併せ冷房設備を追加(除湿工事(冷房工事))すべく,防音校舎改修事業が行われ,宮前小学校については同工事を終えた。ところが,平成23年10月に現市長の就任後,防音校舎改修事業が改められ,他の小中学校に対する除湿工事(冷房工事)が中止された。
    しかし,所沢市の除湿工事(冷房工事)中止の決定は,以下に述べるとおり,当該区域内にある小中学校の児童・生徒の人権擁護という観点からは到底看過することができない。
  2. もともと航空機騒音は,他の騒音源に比べ騒音レベルがはるかに高く広範囲に及ぶこと,独特の特異音成分を含むこと,継続時間が数秒から数十秒の間欠音であること等の特性から,瞬間的な騒音レベルで評価するのではなく,「音のうるささ」という心理的な側面を考慮するとともに,ある期間について時間帯補正をする等して,その総騒音量で評価するW値(WECPNL値)が用いられている。そして,上記区域の航空機騒音については,環境基本法により「人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」はW値70以下と定められている。しかしながら,上記区域に所在する前記宮前小学校における測定値を見ると,過去3年W値73で上記基準を超過していた。
    しかも,同小学校における騒音発生回数は,埼玉県によると,平成23年度は合計1万4602回,1日平均でも40回を超えるほどであった。このように,同区域内での航空機騒音発生状況は環境基本法等に照らし問題なのである。
    そして,騒音が,児童・生徒の詳細な読解力,難問に取り組む際の持続力,読解試験の成績,学習意欲に悪影響を与えることは,WHO(世界保健機関)においても報告されているところである。
  3. そうすると,宮前小学校以外の同区域に所在する小中学校においても事態は同様であり,航空機騒音により生ずる障害を防止又は軽減するためには,窓を閉めた状態で授業を行わなければならない。
    しかしながら,冷房設備の設置されていない同区域に所在する小中学校においては,昨今,夏季期間を中心として,教室内が学校環境衛生基準(学校保健安全法6条)を超えるほどに高温となるため,現状は窓を開けた状態で授業を行わざるをえないという矛盾した状態が生じている。
  4. そのため,同区域に所在する小中学校の児童・生徒は,子どもが一人の人間として成長・発達するため学習する権利及び学習するための諸条件の整備を求める権利(憲法13条,26条)の十全な享受が妨げられている状況にある。
    かかる状況を改善するには,夏季に窓を閉めた状態で授業が行えるよう除湿工事(冷房工事)が行われなければならない。
    こうした観点から,北関東防衛局も,所沢市に対し,温度保持工事(暖房工事)に,除湿工事(冷房工事)を追加して行うよう再三にわたり指導を行ってきたものと思われる。
  5. さらに,上記航空機騒音が防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律に定める基準を超えることから,所沢市は国(防衛省)に補助金を申請した上で,宮前小学校に対しては温度保持工事(暖房工事)と併せ除湿工事(冷房工事)の追加を完了した。これにより,同小学校では,夏季に窓を閉め航空機騒音により生ずる障害が防止又は軽減された状況で授業が行われている。上記除湿工事(冷房工事)に国が補助金の支給を認めること自体,国において,同工事後の学習環境こそがあるべき環境水準であるとみなしていることの表れとも考えられる。
    以上に対して,同小学校以外の同区域に所在する小中学校においては,除湿工事(冷房工事)が行われていないため,児童・生徒は,窓を開けたまま,環境基準を超える騒音が教室に侵入してくる中で授業を受けることを強いられている。
    しかし,このような同一区域内にある小中学校の間での学習環境を異にする取扱いに合理的な理由を認めることはできず,それは平等原則(憲法14条)に違背している。
  6. よって,当会は,所沢市に対し,学校設置者として,「自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しい区域」内に所在する小中学校について,除湿工事(冷房工事)を速やかに行うよう要請するものである。

以 上

2013年(平成25年)2月13日
埼玉弁護士会常議員会

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