2013.02.20

三郷市生活保護国家賠償訴訟さいたま地裁判決に対する会長談話

本年2月20日、さいたま地方裁判所は、生活保護行政の運用の違法性を問うた国家賠償請求事件について、原告らの訴えをほぼ全面的に認め、被告三郷市に対し賠償金の支払いを命ずる判決を下した。

本件は、世帯主の白血病罹患による入院に伴い家計収入を失った原告ら一家が、多額の入院医療費と生活費の負担に苦しみ、幾度となく生活保護の支給を求めて三郷市役所福祉課を訪れたが、三郷市はこれを申請と認めずに約1年半にわたり生活保護開始決定を拒否し続けた上、保護開始決定後わずか3か月で、原告らを転居させて保護を打ち切ったというものである。

本判決は、原告らの訴えをほぼ全面的に認め、本来原告ら一家に支払われるべきであった生活保護費相当額と、さらには精神的損害の賠償も認めている。とりわけ、生活保護制度の適用を求める原告らに対し法律上申請の要件ではない親族の支援などを理由に申請書を交付せずに制度の利用から排除するかのような職員の言動につき、「就労による収入を増やし、身内からの援助もさらに求めなければ生活保護を受けることができないと(中略)誤信させるもので」「申請権を侵害するものである」と判示した点、転居後の生活保護申請を抑制するかの被告職員の言動につき「自活することを前提として・・区で生活保護の相談に行ってはいけないと述べたことは、原告らの生活保護を受ける権利を侵害するものである」と判示した点などは、被告の原告らへの本件対応につき生活保護申請権を侵害する違法があったものと明確に指摘しており重要である。

そもそも、憲法第25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」として生存権を保障し、国は、その具体化である生活保護法において、国家責任による健康で文化的な生活の享受を困窮した人々すべてに保障した。生活保護制度は,「最後のセーフティネット」と呼ばれるように、人々の命を支える最後の砦というべき制度なのである。

本判決は、解決の見えない生活苦の中におかれ続けた原告ら一家の精神的・経済的苦境に照らしても至極妥当なものであり、こうした憲法25条及び生活保護法の理念・制度趣旨に照らして正当である。とりわけ、近年、補足性の原理を不適切に強調して貧困状態にある市民を生活保護制度から不当に排除している一部の生活保護行政に対して警鐘を鳴らすものとして、本判決は、極めて重要な社会的意義を有する。

当会は、本判決を積極的に評価し、三郷市が本判決を真摯に受け止め、以後適法に生活保護制度を運用していくことを求めるとともに、全国の生活保護実施機関に対して、国民の生存権を具体的に保障している生活保護法の精神に則り、適正に生活保護制度を運用するよう求める。

以 上

2013(平成25)年2月20日
埼玉弁護士会会長  田島 義久

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