2013.05.13

パブリックコメント「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」について

2013年(平成25年)5月13日
埼玉弁護士会

第1 「はじめに」について

1 意見内容

「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」は,司法制度改革推進計画が掲げた法曹の需要拡大の見通し等が今でも正しいことを前提に論じられているが,そもそも前提となる法曹の活動領域の拡大の見通しが予想に反する実態である事実,弁護士の増員に反し民事訴訟事件等は減少傾向を示している事実,逆に法曹志望者の激減という深刻な事態を招いている事実等を踏まえたうえで議論を進めるべきである。

2 理由

「中間的取りまとめ」の論調は,「司法制度改革推進計画」(2003年2月閣議決定)が掲げた法曹の需要拡大の見通しが,今でも正しいことを前提に,不都合な箇所を修正していくというものである。しかしながら,この10年間の推移を見ると,被疑者弁護人制度や民事法律扶助制度の拡大など法曹の需要拡大につながった制度改革が進められたものの,企業内弁護士や任期付き公務員の需要拡大等は想定したようには進んでいない事実や,民事訴訟事件自体が減少傾向を示している実態がある。逆に,法曹志願者が激減していること,法科大学院の定員と司法試験合格率が想定に反したこと,新人弁護士の深刻な就職難が発生していること等,この10年間に顕在化した問題点がある。
法曹養成制度の見直しに当たっては,こうした実態と問題点を正面から受け止めたうえで,その原因を分析するところから議論を進めなければならない。そうでないと,問題点の指摘も曖昧になり,検討結果も適切なものにならないからである。

第2 「第1 法曹有資格者の活動領域の在り方」について

1 意見内容

「中間的取りまとめ」は,「各分野について法曹有資格者の必要性や活躍の可能性は概ね認められる」としたうえで,「法曹有資格者の活動領域の拡大もいまだ限定的である」という評価を行っている。しかし,司法制度改革推進計画が掲げた「法曹需要が量的に拡大する」という予想が,この10年間の実態としては誤りであったという現実を直視したうえで,法曹有資格者の今後の活動領域や需要の見通しを冷静に分析すべきである。
また,「中間的取りまとめ」は,社会福祉の分野での活動領域の開拓や刑務所出所者等の社会復帰等における弁護士の法的支援の必要性に言及している。しかし,これらの活動領域は量的に見てごく限定的な分野に過ぎないうえ,社会福祉国家において行政が本来の責務を果たしていないことに対する法曹の補完的な役割であって,将来の法曹人口を左右するほどの需要の拡大分野として位置付けることは疑問である。

2 理由

「中間的取りまとめ」は,「各分野について法曹有資格者の必要性や活躍の可能性は概ね認められる」としたうえで,「その広がりはいまだ限定的といわざるを得ない」としているが,法曹有資格者の必要性や活躍の可能性が認められるという一般論を述べるだけであり,過去10年間の現実の法曹の需要や活動領域が広がっていないという実態の分析が行われていない。
これまで,活動領域の拡大を図るべく取り組みがなされてきたが,結局は想定したほどに活動領域の拡大は図られなかったという現実を直視し,今後の政策判断の前提として,法曹有資格者の需要を冷静に分析することが求められる。そして,法曹の活動領域を拡大する努力を今後も続けることは必要であるが,短期間のうちに大幅に需要が増大するという想定に基づいて議論することは不適切である。
むしろ,司法制度改革推進計画が法曹の活動領域の拡大分野として想定していた企業内弁護士は、2005年の122名から2010年に435名にしか増えておらず,任期付き公務員(国・自治体)は2005年の60名から2010年に89名にしか増えていない。こうした事実に照らし、「法曹の需要の拡大」の予想はこの10年間の実態を見る限り誤りであったと言わざるを得ない。
また,「中間的取りまとめ」は,社会福祉の分野での活動領域の開拓や刑務所出所者等の社会復帰等における弁護士の法的支援の必要性を挙げている。しかし,これらの活動領域の拡大を将来的な法曹人口の需要拡大の理由として位置付けることは適切でない。なぜなら、生活保護申請など社会福祉分野で弁護士が近年取り組んでいる課題は,社会福祉国家においては行政の責任により適切に実施されるべき事務が,現状ではあまりにも不十分であるため,弁護士が補完的・過渡的な役割として支援活動に取り組んでいるものである。したがって,こうした分野の弁護士の活動が将来にわたって法曹需要を大幅に増大するという捉え方は適切でない。

第3 「第2 今後の法曹人口の在り方」について

1 意見内容

「法曹有資格者の需要増大の想定が誤っていたことを踏まえれば,司法試験合格者年間3000人の数値目標を撤回すること,今後の法曹人口は法曹の質の維持や法曹の活動領域の拡大状況などの実情を勘案して決定すべきであるという方針自体は,基本的に適切である。ただし,この場面で「法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない」という抽象論をことさら強調することは適切でない。
当面の合格者数の目安としては,2012年12月には司法修習終了後の一斉弁護士登録時点で約530名が登録できない実情があることや,年間合格者1000人でも弁護士人口は引き続き増加しピーク時には48000人程度まで達することに照らし,年1000人程度と示すべきである。

2 理由

「中間的取りまとめ」は,「社会がより多様化,複雑化する中,法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想され,このような社会の要請に応えるべく,質・量ともに豊かな法曹を養成するとの理念の下,全体として法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない。」とする。
しかし,前述したように法曹有資格者に対する需要の増加が政府の当初予想に反した事実を正しく受け止めることなく,一般論として法曹の需要が今後も増加することばかりを強調することは適切でない。
「中間的取りまとめ」では,民事訴訟事件件数がさほど増えていないと指摘しているが,この10年間の弁護士数は約1.5倍に増加しているにもかかわらず,全裁判所の民事・行政事件の新受件数は2003年の352万件から2009年の240万件と大幅に減少している。また,地方裁判所の民事訴訟通常事件の新受件数も過払金返還訴訟の一時的な増大等により2008年に20万件を超えたものの,2009年以降減少に転じ,2012年には19万件台に減少している。このような状況下において,具体的な検討もなく法曹人口を引き続き増加させる必要性を強調することは適切でない。
以上からすれば,「中間的取りまとめ」が年間3000人の数値目標を撤回したこと、法曹人口は法曹の質の維持や法曹の活動領域の拡大状況などの実情を勘案して決定すべきであるとしたことは、基本的に適切である。
しかし,当面の合格者数の目安としては,昨年12月時点で新規登録できなかった者が530人も発生している事実や年間合格者1000人でも弁護士人口は引き続き増加しピーク時には48000人程度まで達するという実情を踏まえて,合格者数は年1000人程度と示すべきである。
なお,「中間的取りまとめ」は,「法曹人口」という言葉を用いながら法曹三者のうち弁護士の増員のみを議論している。しかし,司法制度改革の本来の目標は裁判官及び検察官の増員の必要性も併せて指摘していたのに,現実にはほとんど増やされていない事実がある。したがって,裁判官・検察官の増員について,国の姿勢を問い直すべきである。

第4 「第3・1・(1) プロセスとしての法曹養成」について

1 意見内容

司法制度改革推進計画において「プロセスとしての法曹養成」とは,「法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた」ものとして提言されたものであり,これを法科大学院修了を受験資格とする制度の存続という議論ばかりに結びつけることは適切でない。
むしろ,当会を含む複数の弁護士会から提案されているように,司法試験受験資格から法科大学院修了の要件を廃止すべきであるという方向性を示すべきである。
「中間的取りまとめ」は,今後の司法試験合格者数の数値目標を撤回するとしながら,法科大学院のあり方については,司法試験受験資格の要件を維持すべきことを強調しつつ,定員の見直しについては,「現在の教育力に比して定員が過大な法科大学院」について定員削減及び統廃合などの組織見直しを進めるとか,課題を抱える法科大学院への公的支援を見直すなどとして,いわば競争による淘汰を提案しているに過ぎない。
仮に,当面,大学院修了を司法試験受験資格として維持するという選択肢を検討するとしても,司法試験合格者の数値目標の撤回に伴って法科大学院全体の定員の大幅削減を検討すべきであるし,地域の適正配置や多様な人材の確保を配慮した法科大学院制度のあり方を正面から議論すべきである。

2 理由

(1) 法科大学院修了に必要な経済的負担が大きいこと 法科大学院を修了するための学費は,旧国公立で見ても授業料だけで年額80万円程度のほか入学金30万円程度が必要とされ,私立の場合は授業料だけでも年間100万円から150万円といわれている。
日本弁護士連合会が2009年11月に新63期司法修習予定者に対して実施したアンケート結果によると,回答者1528名中807名(52.81%)が法科大学院で学ぶために奨学金を利用したと回答した。そのうち,最高額は1200万円であり,平均318万8000円との結果であった。
このように,法科大学院修了を司法試験受験資格とすることは,法曹を志す者に対し多大な経済的負担を課すことにほかならず,これはいわば経済的障壁とでもいうものになっている。

(2)
法科大学院修了に必要な時間的負担が大きいこと
法科大学院の課程を修了するためには,「既修」で2年間,「未修」で3年間,法科大学院で学ぶ必要がある。そして,司法試験を受験できるのは,法科大学院を修了した年からとなるから,司法試験に合格し司法研修所に入所できるまでには,最短で法科大学院入学から3年の期間を要することとなる。
このように,法科大学院修了を受験資格とする現行法のもとでは,当該課程修了までの間の時間的な負担がいわば時間的障害となっている。

(3)
法曹志願者層の狭小化が進んでいること
法科大学院の授業の予習・復習及び課題の負担は過重で,しかも法科大学院の授業内容が司法試験の受験内容と必ずしも一致するわけではない。そのため,仕事を持ちながら夜間の法科大学院に通うことは極めて困難で,法科大学院に入学しようとすれば仕事を辞めざるを得ない。
このように,法科大学院修了を司法試験受験資格とすると,仕事を持ちながら法曹を志す者を事実上排除するに等しい影響が生ずる。
また,司法試験合格者に占める非法学部出身者の割合は,2007年以降,年々下降の一途を辿っている。実際,2009年の新司法試験における非法学部出身者の割合は20.9%と同年の旧司法試験における非法学部出身者の割合27.2%を大きく下回った(平成22年12月付け総務省「法科大学院(法曹養成制度)の評価に関する研究会報告書」添付資料12頁から13頁)。
このように法曹志願者層が狭小化しているのが現実である。

(4)
法科大学院志願者の激減が生じていること
法科大学院に入学するには法科大学院適性試験を受験する必要がある。この点,2003年度の適性試験志願者数は,大学入試センター実施が3万9350人,日弁連法務研究財団・商事法務研究会実施が2万0043人で,双方の適性試験を受験したものの数を勘案しても,ほぼ5万人程度が法科大学院を受験したとされている。ところが,2012年度の全国統一適性試験志願者数は6457人と約7分の1まで激減している。このままでは,法曹を志す者が減少する一方である。
司法制度を適正に運営する上で,現在のように法曹を志す者の範囲が狭まりその数が減少し続けるならば,ひいては司法制度自体が十全に機能し得なくなるおそれが高くなる。

(5)
職業選択の自由との関係で問題があること
法科大学院を修了するには相当の経済的及び時間的障壁が存在し,この両障壁を乗り越えられる者だけが法科大学院で学ぶことができ,いずれか一方でもクリアできない者は入学さえ断念せざるを得ないのが実態である。
職業選択の自由という観点からしても,法科大学院修了を受験資格とすることは重大な問題を孕むといわなければならない

(6)
以上述べたような理由から,司法試験受験資格から法科大学院修了という要件を廃止すべきであるとの意見が当会を含む複数の弁護士会から提案されている。検討会議においても,こうした方向性を示すべきである。

(7)
「中間的取りまとめ」は,法科大学院修了を司法試験の受験資格とすることを維持することを強調する一方で,「現在の教育力に比して定員が過大な法科大学院」の定員削減や統廃合や公的支援の見直しを提言するだけである。しかも,司法試験合格者の数値目標を撤回するとしながら、競争による自然淘汰に委ねる方針を示すのみであり,法科大学院全体の定員の大幅削減の方針は明示していない。これでは,「修了者のうち7〜8割が司法試験に合格できるような」法曹養成機関には到底ならないし,法科大学院制度を導入した際の理念として掲げられた,「地域の適正配置や多様な人材確保への配慮」も実現不可能である。
したがって,仮に,当面,司法試験受験資格として維持するとしても,司法試験合格者の数値目標の撤回に伴い,新たな合格者数に見合う法科大学院全体の定員大幅削減を正面から検討すべきであるし,地域の適正配置や多様な人材確保への配慮を具体的に検討すべきである。

第5 「第3・1・(2) 法曹志願者の減少,法曹の多様性の確保」について

1 意見内容

法曹志願者の減少を食い止め,法曹の多様性を確保するためには,㈰司法試験合格者数を法曹需要の実態を踏まえて1000人以下に削減すること,㈪法科大学院修了を司法試験の受験資格から外すこと,㈫司法修習生や法科大学院生に対する経済的支援を拡大すること等の対策を総合的に講ずることが必要である。

2 理由

「中間的取りまとめ」は,法曹志願者の減少や法曹の多様性の確保の課題について,法科大学院間の司法試験の合格状況にばらつきが大きいことが主な原因であると分析する一方で,「個々の論点における具体的な方策を講ずる必要がある」という抽象的な方針を示すにとどまる。
しかし,法曹志願者の激減という深刻な事態に対する分析と対応策としては,あまりにも不十分である。
今日の法曹志願者の激減や法曹の多様性の低下は,㈰司法試験合格者の数値目標が過大であったために司法修習終了者の就職困難な状況を引き起こしたこと(多数の未登録者,軒弁,即独,宅弁などの問題),㈪法科大学院修了を司法試験受験資格に位置づけるとしながら,合格予定者数を無視した過大な定員(約5800人)を容認した結果,司法試験合格率の全体的な低下を招いたこと,㈫法科大学院の授業料・生活費負担や司法修習生の貸与制移行が法曹志願者の経済的負担を増大させたことなどに原因がある。
「中間的取りまとめ」は,司法試験合格者の数値目標の撤回を掲げるものの,法科大学院全体の定員の削減や司法試験受験資格要件の廃止や法曹志願者に対する経済的支援の拡大という根本的な政策の見直しについては何ら検討しておらず,司法試験受験資格の維持を当然の前提として議論している。
したがって,国民の権利の守り手であり司法の担い手である質の高い法曹を確保するため,司法試験合格者数の見直しや法科大学院制度自体のあり方や法曹養成に対する国の財政措置の責務などを総合的に再検討すべきである。

第6 「第3・1・(3) 法曹養成課程における経済的支援」について

1 意見内容

司法を担う法曹を養成する制度構築は国の本来的責務である。したがって,司法試験に合格した司法修習生に対しては,「給費制」を復活させ,「貸与制」以降の初年度にあたる「第65期司法修習生」にまで遡って「給費制」を適用すべきである。「中間的取りまとめ」は貸与制を前提として部分的な調整を検討するという姿勢であり,根本的な視点の転換を求める。
また,「中間的取りまとめ」は,法科大学院生に対する経済的支援は,「既に相当充実した支援がされている」という評価により,その継続で足りるとしているが,仮に法科大学院制度を法曹養成機関として位置付けるのであれば,法科大学院生に対してもさらに経済的支援を拡大すべきである。

2 理由

日本国憲法は,個人の尊厳を中核とする基本的人権の尊重をその基本原理とする(憲法13条前段・11条・97条)とともに,人権の確保・実現の究極的役割を司法に課している(憲法76条・81条・98条1項)。これこそが人権主体である国民から司法に対する負託である。そして,司法の中核をなすのは何より法曹であるところ,人権尊重を基本的原理とする憲法のもとでかかる法曹を養成するということは,国の本来的責務と言うことになる。司法修習は,法曹養成のための制度の根幹をなすものというべきである。
そのような司法修習において育成される司法修習生には,なによりも司法修習の全課程に専念し切磋琢磨することが求められる。そうだとすれば,司法修習生が修習期間中経済的に窮すること無く修習に専念できるよう制度構築を図ることが肝要となるはずであり,その点を従前から制度的に担保してきたのが「給費制」にほかならない。
したがって,給費制は是非とも復活させなければならず,貸与制を前提とする「中間的取りまとめ」には到底賛同できない。
なお,「中間的取りまとめ」においては,「経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないよう,司法修習生の修習専念義務の在り方なども含め,必要となる措置を更に検討する必要がある。」としている。これは,修習専念義務の緩和ないし撤廃可能性を示唆する見解と結びつくおそれがある。しかし,修習専念義務は限られた時間・場所において司法の実務を習得するという司法修習を実効あらしめる制度的担保であり,質の高い法曹を養成するという理念に照らし,修習専念義務を緩和・撤廃することは到底認められない。
さらに,「中間的とりまとめ」は,法科大学院生に対する国の経済的支援については現状で十分であるという認識であるが,司法の担い手である法曹を国の責任によって養成するという根本問題に照らしても,また法科大学院生の授業料負担の大きさが法曹志望者の激減の要因の一つとなっているという指摘に照らしても,法科大学院生に対する経済的支援を大幅に拡充すべきである。
さらには,司法試験合格後に実務修習を中心としたプロセスとしての法曹養成制度として司法修習制度を充実させるのか,司法試験合格前の法科大学院生に対する法曹養成制度について国の予算で拡充するのか,法曹養成制度としての有効性と国の財政負担の方向性を根本的に再検討すべきである。

第7 「第3・2 法科大学院について」

1 意見内容

「中間的取りまとめ」は,法科大学院修了を司法試験受験資格の要件とする見解を示しながら,定員見直しについては法科大学院間の競争と淘汰に委ねるという方針を示すにとどまっており,あまりにも不十分な提言でありそれ自体矛盾をきたしている。

2 理由

「中間的取りまとめ」は,法科大学院の定員見直しの問題を,教育力の低い法科大学院の定員削減や統廃合や公的支援の見直しの問題として捉えており,いわば法科大学院間の競争と淘汰によって定員削減を導くという方針を示すに過ぎない。
しかし,こうした対策では多様な社会的背景を持つ法曹の養成や地域の適正配置という理念を実現することは到底できないし,司法試験合格者数の見直しに伴う法科大学院全体の定員削減にもつながらない。
仮に当初の想定に沿って法科大学院修了者の7〜8割が司法試験に合格する法曹養成機関として維持するのであれば,法科大学院全体の定員の大幅削減や地域の適正配置や多様な人材確保に配慮した法科大学院のあり方を根本的に再検討しなければならないはずである。
これに対し,司法試験受験資格を撤廃して法科大学院は教育の独自性を発揮することを目指すという考え方に立てば,法科大学院は先端的法分野の研究及び修得の機会を提供する広義の法律専門職のための大学院として存続することも可能であろうし,法科大学院の教育内容の決定を個々の法科大学院の自主性に委ね,各校の特色に応じた個性ある教育の実施を保障することも可能であろう。
大学の設立も運営もある一定の基準を設定しそれをクリアすれば,あとは大学の自由裁量(大学の自治)に任せられるべきであるという原則を守るのであれば,前述のとおり,司法試験受験資格から法科大学院修了の要件を外すこととすることにより,各法科大学院に対し強権的に教育の質の向上のための対策を講じさせたり,認証評価を受けさせたりする必要はなくなるし,定員・設置数について国が強権的にコントロールを及ぼす必要もなくなる。
これに対し,司法試験受験資格に連動させて質の高い法曹を養成する機関として位置付けるのであれば,法科大学院全体の定員の削減や地域の適正配置や多様な人材確保等の配慮について,国が相当程度に関与することが避けられない。
法曹養成制度検討会議は,こうした根本的な制度設計の選択肢を検討し直すべきである。

第8 「第3・3・(1) 受験回数制限」について

1 意見内容

受験回数制限は廃止すべきである。

2 理由

受験回数制限については,受験競争の激化や大量の司法試験浪人の発生という旧司法試験の弊害の防止が理由とされることがある。しかし,そもそも人生の選択とその責任は個々人に帰属するものであり,あえて試験制度として受験希望者を「切り捨て」なければならないとする合理的理由は見出しがたい。

第9 「第3・3・(3) 予備試験制度」について

1 意見内容

司法試験の受験資格から法科大学院修了の要件を外すならば,そもそも予備試験は不要となる。
仮に,当面,司法試験受験資格を維持する見解に立つならば,法曹の多様性を確保し,経済的理由から法曹を断念することがないようにし,法科大学院全体の質の維持を客観的に検証するため,予備試験の拡大は不可欠である。

2 理由

司法試験の受験資格から法科大学院修了の要件を外すべきであることは前述のとおりである。そうすると,司法試験の受験資格から法科大学院修了の要件が外れれば,予備試験は不要となる。これに対し,法科大学院修了が司法試験受験の要件になっている限りでは,予備試験の合格者を増加させ,予備試験の科目等を簡素化・簡易化していくべきである。

第10 「第3・4 司法修習について」

1 意見内容

実務修習を基本とした司法修習を法曹養成制度の中核に据えることを改めて確認すべきであり,法科大学院の教育を充実することで司法修習を短縮してよいという考え方は誤りである。ましてや,法曹養成に対する国の財政負担や運営負担を軽減するため司法修習の内容を法科大学院に代替させるという考え方は根本的に誤りである。

2 理由

司法試験の受験資格から法科大学院修了の要件を外すべきであることは前述のとおりである。司法修習を法曹養成制度の中核に据えるべきであり,そのうえで法科大学院教育と司法修習の連携は別次元の問題として検討すべきである。さらに,司法修習における実務修習の効果を高めるため,弁護士会も対等に運営に関与する方式で前期集合型修習を復活させるべきである。また,選択型実務修習は廃止し,実務基礎力を修得させるべく基本的な内容の実務修習を期間の拡大を含めて実施すべきである。

第11 「第3・3・5 継続教育について」

1 意見内容

賛成する。

2 理由

司法試験の受験資格から法科大学院修了の要件を外したとしても,法律専門職に対し,高度かつ先端的分野を学ぶ機会を提供する「法科大学院」が存在することには大いに賛成である。

以 上

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