2013.05.25

個人通報制度の導入を求める決議

2013年(平成25年)5月25日
埼玉弁護士会定時総会

決議の趣旨

人権諸条約の国際的基準に従った権利・自由の保障が実現・確保されるべく,政府・国会に対し,人権諸条約に規定された個人通報制度を導入することを強く求める。

決議の理由

  1. 個人通報制度とは,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」)等の人権条約を批准した国において,条約によって保障された権利・自由を侵害された個人が,国内の裁判等の手続きを尽くしても権利・自由の救済がなされない場合に,条約で定められた人権条約機関に直接救済を申し立てる制度である。人権条約機関は,個人からの人権救済の申立て(通報)に対し,人権侵害・条約違反の有無を判断して通報の相手国に対し見解(Views)を通告し,当該相手国の政府・議会がこれを受けて国内での立法や行政措置などを実施することにより当該個人の権利・自由の救済を図ろうとするというものである。
  2. このように個人通報制度は,主権国家中心の国際社会において個人を独立の法主体と認め,かかる個人が自らの名において権利回復を図ることを可能とする国際制度である。そういった点から,人権条約機関による締約国政府報告書審査制度とは異なり,個人通報制度の受入れは人権条約を批准した各国の選択に委ねられている。たとえば,自由権規約及び女性差別撤廃条約では選択議定書において,また人種差別撤廃条約及び拷問等禁止条約では各条約本文において個人通報制度を定めているが,前者については選択議定書の批准,後者については個人通報条項の受諾宣言によりその導入が可能である。
  3. しかるに日本は,上記各人権条約を批准しているにもかかわらず,いずれの選択議定書の批准も個人通報条項の受諾宣言も行っておらず,個人通報制度をいまだ導入しない。日本政府の導入しない主たる理由は司法権の独立を損なうということにあるが,この制度における人権条約機関の見解には法的拘束力まではなく勧告的効力にとどまると考えられていることからすると当を得ない理由といわざるを得ない。
    加えて,諸外国の導入状況をみると,たとえば自由権規約の選択議定書を批准した国は昨年1月現在で114か国にのぼる。また,OECD加盟国34か国のうち何らの個人通報制度を持たない国は日本を含む2か国のみである。このような状況から日本政府に対しては,2008年の国際人権(自由権)規約委員会による第5回日本政府報告書審査に基づく総括所見をはじめ各人権条約機関から個人通報制度導入勧告を幾度も受けてきている。
    しかるに,日本政府はいまだ導入姿勢にあるとは言い難い。また,依然として裁判所は人権条約の適用について極めて消極的であるほか民事訴訟法の上告理由に人権条約違反が含まれないなど日本における人権条約の実現は極めて不十分な状況のままとなっている。
  4. これに対し,各人権条約機関は,個人通報制度導入国には条約違反と判断された場合に当該被害者個人へ効果的な救済を与える義務があるとする見解を公表するとともに,見解に示す勧告内容を遵守することを締約国に求めている。そのため,人権条約機関の見解を経た後には,当該見解に従った人権回復のための新たな行政的措置や立法などが期待される。したがって,個人通報制度による救済は,個別事案にとどまることなく,その後の同種事例の国内における救済を国際人権基準に従ったレベルに近づけることにもなり得る。
    また,裁判所は国内での裁判の後に人権条約機関で自己の判断が審査される場合があることを前提とすることになるため,人権諸条約の内容や人権条約機関の見解を念頭において審理・判断せざるを得ないこととなる。
    このように,個人通報制度の導入は,日本の人権保障水準を国際基準に従ったレベルとすることに大きく途を開くものといえる。
  5. よって,当会は,政府及び国会に対し,個人通報制度を速やかに導入するよう強く求めるものである。

以 上

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