2013.07.10

憲法96条の憲法改正発議要件の緩和に反対する声明

  1. 弁護士会は,「基本的人権の擁護と社会正義の実現」(弁護士法1条)を職責とする法律専門家の団体として,政治的争点に係る問題であってもその根底に人権尊重,立憲主義,平和主義の憲法原理に係る問題があるときは,その法的意義の重要性を指摘する意見表明を行ってきた。今般の憲法96条改正問題は,立憲主義という近代憲法の基本原理を揺るがす重大な問題として,意見を表明するものである。
  2. 安倍晋三首相は,本年1月30日の衆議院本会議の答弁において,まず憲法96条の改正に取り組むと明言した。これは,自由民主党が昨年4月27日に公表した「日本国憲法改正草案」において,基本的人権保障規定や憲法9条の平和原則を大幅に改変するとともに,憲法96条の憲法改正発議要件を緩和する旨提案したことを推進する意図であるといえる。
  3. しかし,そもそも憲法は「侵すことのできない永久の権利」(11条,97条)として基本的人権を保障し,議会多数派の手によっても人権保障の諸規定の改変を許さないために,憲法96条により憲法改正の発議要件を衆参両議院の総議員の3分の2以上の賛成を要するものと定めている。さらに,憲法は,その最高法規性(98条)と違憲立法審査権(81条)を規定し,一切の法律よりも上位の法規として国家権力を拘束し,基本的人権の保障を全うすることを明示している。つまり,憲法改正の発議要件を厳格化していることは,近代立憲主義の本質に由来するものである。
    仮に,憲法改正の発議要件を国会議員の2分の1に緩和すれば,そのときどきの多数党が法律の制定・改正とほとんど変わらない手続によって,憲法の諸規定を変更する発議が可能となる。しかも、国民投票法は、投票率の多少にかかわらず有効投票総数の過半数の賛成で足りるものとされていることを加味すれば、憲法の最高法規性が実質的に失われることとなる。つまり,憲法改正の発議要件の緩和は手続の問題だけではなく、さらに,基本的人権保障規定や憲法9条の平和原則という憲法の基本原理が侵されるおそれが強い。
  4. また,他国の例を見ても,憲法改正につき法律よりも厳しい要件を課している国がほとんどである。ルーマニア,韓国,アルバニア等は憲法96条と同様の改正要件が定められており,ベラルーシやフィリピン等日本よりも厳しい憲法改正要件を課している国も存在する。アメリカ,ドイツなどでも連邦議会の3分の2以上の議決が必要とされている。比較法的見地からしても憲法96条の発議要件の緩和は正当化し得ない。
  5. よって,当会は,憲法96条の憲法改正発議要件の緩和を,日本国憲法の立憲主義の堅持及び基本的人権保障の見地から強く反対する。

以 上

2013年(平成25年)7月10日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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