2013.12.11

商品先物取引について不招請勧誘禁止を撤廃することに反対する会長声明

  1. 本年6月19日、衆議院経済産業委員会における、証券・金融・商品を一括的に取り扱う総合取引所での円滑な運営のための法整備に関する議論の中で、内閣府副大臣は、「商品先物取引についても、金融と同様に、不招請勧誘の禁止を解除する方向で推進していきたい」旨の答弁をした。
    また、本年8月23日付金融専門紙記事には、政府が商品先物取引に対する不招請勧誘禁止の解除を検討することが報じられた。
    上記内閣府副大臣の答弁及び専門紙の報道は、総合取引所において商品先物取引業者に対して監督権限を有する金融庁が、総合取引所における商品先物取引の法規制について、不招請勧誘禁止を撤廃し、禁止規定を設けない方向で検討していることを示すものである。
  2. しかし、このような動きは、商品先物取引について不招請勧誘禁止規定が導入されるに至った経緯を全く無視し、消費者保護を著しく後退させるものであって、到底看過できない。
  3. そもそも商品先物取引は、その仕組みが複雑で一般消費者には理解し難く、且つ、相場変動要因も多種多様であり、一般消費者がその仕組みを正確に理解した上で変動激しい相場を的確に予測し取引を行うことは極めて困難な取引である。また、同取引は証拠金取引であり、証拠金の何倍もの値段の取引を行うため、僅かな価格変動により多額の損失が生じるおそれがあるリスクの極めて高い取引である。
    一方で、商品先物取引業者の収入源である手数料は、委託者がより多く且つ頻回に取引をするほど多く得られるため、悪質な業者が、投資経験の乏しい一般消費者を取引に引き込み、担当外務員に頼らざるを得ない状況を利用して、より多くの資金で大量・多数の取引をするように誘導し、一般消費者にその属性に照らして過大なリスクと手数料の負担を負わせ、結果、消費者が資産を身ぐるみ剥がれるといった深刻且つ悲惨な被害を与えてきた現実がある。そして、そのような被害のほとんどは、商品先物取引業者による突然の電話や訪問による勧誘によりもたらされてきた。
    商品先物取引に関する不招請勧誘の禁止は、このような立法事実を踏まえ、消費者・被害者関係団体等の長年にわたる強い要望によって、2011年1月施行の商品先物取引法法第214条9号及び同法施行令第30条により、ようやく導入されたものである。
  4. 上記のような不招請勧誘禁止の導入の経緯に鑑みれば、不招請勧誘禁止撤廃を検討するにあたっては、商品先物取引業者が従来の姿勢を改め、商品先物取引における消費者保護の徹底が図られたと見られる状況が必要と言うべきである。
  5. 2012年8月、産業構造審議会商品先物取引分科会が取りまとめた報告書においても、「不招請勧誘の禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず、これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため、引き続き相談・被害の実態を見守りつつできる限りの効果分析を試みて行くべきである」「将来において、不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として、実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ、不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である。」として、不招請勧誘禁止規定の維持と、見直しの検討には消費者保護の徹底が定着したと見られることが前提として必要であることが確認されている。
  6. 従来より、商品取引所法(現・商品先物取引法)は、消費者・委託者保護の観点から幾度も改正が行われてきたが、強引な勧誘による消費者被害は後を絶たなかった。しかし、不招請勧誘禁止規定の導入により、そのような被害は激減した。不招請勧誘の禁止は商品先物取引において消費者被害の防止に極めて有効な措置であったことは明らかである。
    一方で、度重なる規制強化及び不招請勧誘の禁止導入後も被害が根絶されたわけではない。厳しい規制にもかかわらず旧態依然とした消費者被害も少なからず報告されており、業界の実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したとは到底言い難い状況である。にもかかわらず、不招請勧誘禁止を撤廃し、一般消費者への業者のアクセスを容易にすれば、再び従来と同様の消費者被害が多発する事態となりかねない。
    不招請勧誘禁止規定の撤廃を検討する理由が、商品先物取引市場の活性化などにあるとしても、それは、一般消費者に対する望まない勧誘を許し、商品先物取引のような複雑で理解しがたくリスクの極めて高い投機取引に不向きな一般消費者を引き込んでまで実現すべきことではないことは明らかである。
    規制導入から間もない現時点において、何らの具体的検証もなく、不招請勧誘禁止規定を撤廃する方向で検討することは消費者保護の観点から到底容認できない。
  7. 商品に係るデリバティブ取引を金融商品取引所において取り扱えることとした金融商品取引法の改正法が2012年9月6日に成立し、2014年3月に施行が予定されているところ、同法施行令第16条の4(不招請勧誘等が禁止される契約)に、「商品関連市場デリバティブ」も加えなければ、総合取引所に上場する商品先物取引には不招請勧誘禁止規定が適用されなくなる。
  8. よって、当会は、商品先物取引についての不招請勧誘禁止を撤廃することに強く反対し、改正金融商品取引法施行令第16条の4(不招請勧誘等が禁止される契約)に「商品関連市場デリバティブ取引」を追加すべきことを求めるものである。

以 上

2013年(平成25年)12月11日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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