2014.01.22

過労死・過労自殺の防止に向けた法整備を求める会長声明

第1 声明の趣旨

  1. 過労死等防止基本法を早期に制定し、過労死・過労自殺の防止に向けた行政の役割を明確にし、同法に従った予算措置を直ちに講じること。
  2. 労働基準法等の改正により、終業時間と始業時間の間に11時間の休息時間を空ける旨の規制をすること、時間外労働時間の上限を年間360時間と定め、労使協定の特別条項を削除することなど過労死の防止に向けた規制の強化を図ること。

第2 声明の理由

  1. 過労死を巡る現状
    過労死や過労自殺は、それにより懸命に働いてきた労働者の生命を奪うことはもとより、それのみならず遺族を含めて生活が破壊される極めて大きな社会問題であって、現代社会において決して存在してはならない事象である。
    しかし、近時我が国における労働環境は改善する傾向になく、過酷な長時間労働がはびこり、過労死や過労自殺は後を絶たない。厚生労働省のまとめた「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」(平成24年度)によると、脳・心臓疾患に関する事案の労災補償申請件数は、過去最高を記録した前年から若干減ったものの842件(うち死亡件数285件)に及び、支給決定件数は2年連続増加となる338件(うち死亡件数123件)に及んでいる。精神障害に関する事案の労災申請件数は、1257件で高水準で推移し、支給決定件数は475件(前年比150件増)で、うち自殺が93件(前年比27件増)でいずれも過去最多となっている。
  2. 過労死等防止基本法制定の必要性とこれまでの動き
    上記現状に鑑み、我が国の労働現場における長時間労働を含めた規制を強化し、過労死・過労自殺を根絶することを目的とした「過労死等防止基本法」の制定は喫緊の課題である。
    この間、平成24年6月以降、4都道府県議会、71市町村議会が過労死等防止基本法の制定を求める意見書を採択し(平成26年1月12日現在)、国会においても、昨年の臨時国会で、超党派野党議員による同法の法案が提出され、継続審議となっている。同法案は、基本理念の中で過労死・過労自殺を「あってはならない」と位置づけ、国が実態調査を行い、施策の実施状況を国会に報告する、遺族らが参加する「防止推進協議会」を厚生労働省に設置することなどをその内容とするものである。
    そこで本会も、ここに改めて過労死・過労自殺の防止を国が宣言し、そのための国、自治体、事業主の責務を明確にし、遺族らの声を聞きながら、国が過労死・過労自殺の防止に向けた総合的な対策を行うことをその内容とする「過労死等防止基本法」を早期に制定するよう求めるものである。
  3. 過労死防止のための労働基準法改正の必要性
    また、上記基本法の制定と相まって、過労死防止のための具体的な法規制も急務である。上述のとおり、本年の通常国会においても、過労死等防止基本法案自体は審議される予定であるが、同法と関連づけた労働基準法の改正等具体的な法整備、規制強化の動きは未だ見られない。
    この点、EU(ヨーロッパ連合)においては、一日の労働が終わり、次の労働が始まるまでの間に、連続11時間の休息時間を保障することを法制化している。我が国においても、かかる規制を設けることで、睡眠時間の確保ができ、疲労の蓄積を解消させ、過労死の防止に繋がる。
    また、時間外労働時間に関しては、旧労働省告示154号においては原則として年間360時間を上限と定められており、労働基準法36条に基づく労使協定においても、原則として月間45時間を上限と定められている。しかし、告示(通達)には法的拘束力はないし、労働基準法では特別条項による繁忙期等の例外の余地を残していることから、実際には脳・心臓疾患に係る過労死認定基準である月当たり80時間の時間外労働時間を超えた時間外労働を可能とする労使協定を結んでいる例も少なくない。
    そこで、時間外労働に関する年間360時間の上限規制を労働基準法で規定し、労使協定(いわゆる36協定)に基づく時間外労働の特別条項を削除するなど、過酷な時間外労働が可能となっている現行規定を改正することによって、直接的に過労死・過労自殺の防止を図るべきである。
  4. 以上のとおり、当会は、過労死等防止基本法の制定や労働基準法の改正など、過労死・過労自殺の防止に向けた法整備の早期実現を求める。

以 上

2014年(平成26年)1月22日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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