2014.01.22

裁判所速記官の養成再開を求める会長声明

当会は,最高裁判所に対し,直ちに裁判所速記官の養成を再開するよう強く求める。

  1. 速記官制度は,裁判記録の正確性と公正さを担保するとともに,迅速な裁判を実現するために必要不可欠な制度である。
    ところが,最高裁判所が1998年度から裁判所速記官の新規養成を廃止したことにより,ピーク時において全国に825人いた裁判所速記官は,2013年4月時点において208名にまで激減している。
  2. 最高裁判所は,裁判所速記官による裁判記録に代わるものとして,民間委託による「録音反訳方式」を導入している。しかし,録音反訳方式については,一般的に調書の完成までに日数がかかることに加え,反訳者が法廷に立ち会っていないことから完全に逐語化されているとは言い難く,また,民間業者が必ずしも専門的な法律上の言い回しなどに精通しているとはいえないことから,調書に誤字や脱字が散見されるとの報告がされている。さらに,プライバシーの漏洩等の懸念をぬぐい去れない。
    今般,当会の会員から,民事訴訟での原告本人尋問において担当書記官による電磁的記録の保管に不手際があり,被告代理人の反対尋問及び裁判所の補充尋問が調書に一切記録されず,再度,尋問を行うという事例が報告されるなど,速記官による速記録では起こりえない,裁判記録の正確性と公正さを揺るがす深刻な事態も生じている。
  3. また,刑事裁判においては,2009年5月から裁判員制度が導入され,これに伴い,法廷での証言内容等を音声により記録・確認する「音声認識システム」が導入されたが,この音声認識システムについては,現在においても誤変換が極めて多く,正確な裁判記録の作成にはほど遠い状況にある。また,電磁的に記録されたデータは,一覧性や速読性に欠け,訴訟準備や審理に活用されていないとの報告がされている。
    このような状況において,的確で公正な審理や評議ができるのか大いに疑問であり,被告人の権利を擁護することを責務とする弁護人の立場からすれば,証言内容を的確に把握するために多大な労力を要するばかりか,音声認識システムのみに頼ることは,不正確・不十分な裁判記録に基づいて誤った事実認定がなされるという危険をはらんでいると言わざるを得ない。
  4. これに対し,裁判所速記官による速記録は,裁判の後に迅速に文字化できるまでに進歩し,文字化された逐語録は一覧性に優れ,何より,法律用語に精通した速記官が,事前に裁判記録に目を通した上で法廷に立ち会って作成することから正確かつ公正である。
    現在,世界の多くの国々で速記官によるリアルタイム速記が取り入れられており,ハーグの国際刑事裁判所でも速記録が活用されている。また,米国では,録音・録画に頼る記録方式から速記官による記録方式に戻した州があるとの報告がされるなど,法廷でのリアルタイム速記はむしろ世界的な潮流ともいえる。
  5. 以上のことから明らかなように,民事・刑事を問わず,正確で公正な裁判記録の存在は,国民の公正で迅速な裁判を受ける権利の保障に不可欠といえる。裁判所が,国民の基本的人権を擁護すべく,適正・公正かつ迅速な裁判を実現するためには,専門的な研修を受け裁判に通暁した裁判所速記官による速記録の作成が必要である。
  6. 当会は,速記録問題対策特別委員会において,音声認識システムの機能の検証や利用状況,全国における速記官の配置状況の調査などを行うとともに,速記官の養成再開に向けた活動に取り組んでいるところであるが,以上の事情を踏まえ,最高裁判所に対し,速やかに裁判所速記官の養成を再開するように強く求める。

以 上

2014年(平成26年)1月22日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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