2014.02.13

労働政策審議会の「労働者派遣制度の改正について(報告書)」 に基づく労働者派遣法の改正に対して強く反対する会長声明

  1. 平成26年1月29日,厚生労働省の労働政策審議会は,「労働者派遣制度の改正について(報告書)」と題する報告書を取り纏め,厚生労働大臣に建議をした。安倍政権は,この建議に基づいて労働者派遣法改正案を作成して,今年度の通常国会に提出し,成立することを目指している。
    しかし,この「労働者派遣制度の改正について(報告書)」(以下「報告書」とする)は,更なる非正規労働者の増加,正社員の非正規への置き換えをもたらすのみならず,非正規労働者の低賃金・不安定雇用という「身分」を据え置くものであって,既に「雇用規制緩和政策に反対する意見書」(2013年8月20日)を執行し,「人間らしい働き方」の実現を求める当会の立場としても,到底容認しうるものではなく,従って,これに基づく労働者派遣法の改正に対して強く反対の意見を述べるものである。
  2. 報告書においては,いわゆる「派遣切り」等で派遣労働者の低賃金・不安定雇用が極めて重大な社会問題となり,平成24年改正時の付帯決議において,登録型派遣等について廃止も含めた今後の在り方を検討すると議決された経過が踏まえられず,十分な検討をすることなく,いわゆる登録型派遣・製造業派遣を存置している。そして,26業務という専門分野に関する区分や業務単位での期間制限を撤廃し,無期雇用の派遣労働者,60歳以上の高齢者等に関する期間制限を撤廃している。また,有期雇用の派遣労働者に関しても,派遣先が3年ごとに過半数労働組合もしくは過半数代表者から意見聴取さえすれば,派遣労働者の入れ替えによって,永続的な労働者派遣事業が可能となるのである。これらの内容は,常用代替を認めないという労働者派遣法の趣旨や,「派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限ることを原則」とするという報告書自身が掲げる基本理念にも真っ向から反し,更なる非正規労働者の増加,正社員の非正規への置き換えをもたらすものにほかならない。
  3. また,報告書が掲げる低賃金・不安定雇用の解消のための施策は,極めて不十分である。派遣労働者の処遇改善についても「均衡待遇」の推進という配慮(努力)義務にとどまり,正社員化についても単なる情報提供にとどまっている。また,有期雇用における雇用安定措置としては,3年の上限に達した際に,㈰派遣先への直接雇用の依頼,㈪新たな就業機会(派遣先)の提供,㈫派遣元事業主において無期雇用,㈬その他の措置のいずれかを講ずるとしているが,㈰の実効性は乏しく,㈪に関しても,他の派遣先が存在しない等の場合には十分な措置となり得ない。また,㈫に関しては派遣元における無期雇用が実現しても,いわゆる「派遣切り」で顕在化したように,整理解雇が頻発し,派遣元において雇用を維持する体力のない中で,派遣社員を無期雇用化したとしても,雇用の安定を十分に図りうるものではない。このように報告書では,「雇用の安定と処遇の改善を進めていく必要がある」としながら,その制度設計としては,極めて不十分であって実効性に大きな疑問が残るのである。
  4. 以上のとおり,報告書に基づく労働者派遣法の改正は,常用代替を認めないという法の趣旨を没却し,更なる非正規労働者の増大や正社員の非正規化をもたらし,かつ,雇用の安定・処遇改善のための実効性ある措置もないため,低賃金・不安定雇用という身分の固定化に対する歯止めもなく,「人間らしい働き方」とは全く相容れないものであって,当会は,報告書並びにこれに基づく労働者派遣法の改正の動きに対して,強く反対するものである。

以 上

2014年(平成26年)2月13日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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