2014.03.12

「新時代の刑事司法制度特別部会 取りまとめに向けての意見」 に関する会長声明

  1. 法制審議会に設置された「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」)の最近の議論においては,昨年1月に公表した中間試案的な同部会の「時代に即した新時代の刑事司法に関する基本構想」に従い検討がなされてきた。このうち特に,「取調べの可視化」については,㈰一定の例外事由を定めつつ,原則として,被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付けるとしつつ,実際には,裁判員制度対象の身柄事件を念頭に置いて制度の枠組みに関する具体的な検討を行い,その結果を踏まえ,更にその範囲の在り方について検討するという案と㈪録音・録画の対象とする範囲は取調官の一定の裁量に委ねるという案について具体的な制度設計の検討を行うこととされてきた。
  2. これに対し,上記特別部会の周防正行及び村木厚子外3名の委員は,本年3月7日,これら5名の委員連名による標記意見書(以下「本意見書」)を特別部会に提出した。本意見書は,まず「ある日突然刑事事件の被疑者,被告人,被害者,証人,裁判員等になりうる一国民として審議に積極的に参加してきた」としたうえで,㈰取調べの可視化は「原則としてすべての事件がその対象となるべきである」とし,かつ㈪「録音・録画の例外はできる限り制限的であるべきであり,かつ客観的な基準によることが必要である」という。併せて,㈫「参考人についても本来全過程の録音・録画が行われるべきで」あるが,刑訴法321条1項2号を踏まえるならば「少なくとも検察官取調べについては参考人も録音・録画の対象とすることを検討すべきである」とした。
  3. もともと,この特別部会は,2010年9月に無罪判決が確定した「郵便不正事件」(村木さん冤罪事件)における現職検事の証拠改ざんの発覚等を契機として法務省内に「検察の在り方検討会議」が設置され,同会議の提言に基づき法務大臣が2011年5月に設置したものである。そして,この設置時の諮問は「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや,被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について,御意見を承りたい」というものであった。
    以上を真摯に踏まえるならば,特別部会における検討内容は,取調べや供述調書に過度に依存することのない捜査・公判の在り方,特にあるべき被疑者等の取調べの可視化について具体的方策を検討することとなるはずである。
  4. しかるに,前述のとおり特別部会における取調べの可視化に関する最近の検討状況は,同部会設置の上記諮問の趣旨にそぐわないものとなっている。それどころか,上述のとおり録音・録画の対象を裁判員制度対象の身柄事件程度に限定する,あるいは取調官の裁量に委ねるなどということは,取調べの可視化が求められた歴史的経緯・事由に照らし到底容認できないものといわざるを得ない。
    そもそも,1980年代の4件もの死刑再審無罪事件や近時の足利事件・布川事件の再審無罪事件あるいは前述の郵便不正事件や志布志事件等をみれば,密室での取調べこそが虚偽自白・冤罪の根本原因であることはもはや明白な事実である。取調べの全過程の可視化は,誤判・冤罪を防ぎ,自由と人権を護るうえで不可欠なのである。
    本意見書は,同部会設置の趣旨や「適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のある」証拠に基づく刑事裁判の実現という原理・原則を踏まえた取調べの可視化の制度設計を迫るものといえる。
  5. よって,当会は,本意見書の内容・趣旨に深く賛意を表するとともに,改めて,参考人聴取を含めた取調べの全過程の録音・録画を義務付ける制度の構築を求める次第である。

以 上

2014年(平成26年)3月12日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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